コラム・新種牡馬評論【1】9月末までの産駒成績について

本稿はデータを元に新種牡馬の産駒成績を定点観測していきながら、個々の産駒のパフォーマンスにも留意しつつ各種牡馬の今後を占っていこうという趣旨ではじめる新連載。初回となる今回はドレフォンシルバーステート、キタサンブラックの産駒成績について取り上げる。

※本稿で使用しているデータは全て中央でのもので、9/26までの数字となる。

概況

以下、ドレフォン、シルバーステート、キタサンブラック産駒の9月末までの戦績をまとめている。

種牡馬名出走頭数勝ち上がり頭数勝ち上がり率
ドレフォン52頭11頭21.15%
シルバーステート28頭7頭25.00%
キタサンブラック21頭8頭38.10%
種牡馬名出走回数勝利数勝率
ドレフォン84回12勝14.30%
シルバーステート59回9勝15.30%
キタサンブラック31回8勝25.80%
種牡馬名CPIAEI平均勝利距離
ドレフォン1.291.501533.3m
シルバーステート0.852.091544.4m
キタサンブラック3.141.661825.0m
種牡馬名芝での勝ち上がり頭数(勝利数)ダートでの勝ち上がり頭数(勝利数)
ドレフォン6頭(7勝)5頭(5勝)
シルバーステート7頭(9勝)0頭(0勝)
キタサンブラック7頭(7勝)1頭(1勝)

ドレフォン

・出走頭数が圧倒的に多いが、重賞勝ち馬を早々に輩出。芝・ダート兼用の強みも活かし、ロードカナロア、ディープインパクトを凌ぐ12頭が勝ち上がり。芝での6頭の勝ち上がりは全て新馬戦でのもので、未勝利での勝ち上がりが無いというのは今年のロードカナロア、ディープインパクトの勝ち上がり状況でも無い事象。

シルバーステート

・シルバーステートはロン、ベルウッドブラボーの2頭がオープン勝ち。CPIや勝ち上がり馬の内、ノーザンファーム生産馬が0頭という数字が示すように限られた繁殖の質から出したこの成績は特筆すべきものでAEIは2を超えている。ダートでの勝ち上がりは0頭で、勝ち鞍は芝1200mで3勝、芝1400mで2勝、芝1500mで1勝と芝のマイル以下で6勝。この辺りが今後の産駒の主戦場となりそうだが、先週、ロンが野路菊S(芝2000m)を好内容で制したのはシルバーステート産駒への印象を大きく変える確かな成果。

キタサンブラック

・CPIが3頭の中では抜きん出て高く、これまでにディープインパクト、キングカメハメハなどが交配され、産駒が活躍した繁殖牝馬を母に持つ産駒が揃っている状況。勝ち鞍は芝1800mで4勝、芝2000mで2勝をあげており、平均勝利距離は1825.0m。新種牡馬産駒のこの時期の平均勝利距離が1800mを超えているのは2016年のルーラーシップ(1875.0m)がイメージに近いがあまり無いケース。ディープインパクト(2010年)、ドゥラメンテモーリス(2020年)、キズナ(2019年)らは全てこの時期の平均勝利距離は1600m台で、今後のキタサンブラック産駒の活躍が見込まれる舞台はやや限定的なものになる前兆が見て取れる。

距離適性について

以下はドレフォン、シルバーステート、キタサンブラックの距離別のこれまでの産駒成績をまとめたもの。参考としてディープインパクト、ロードカナロア、ヘニーヒューズの産駒成績も併記している。各産駒の大まかな適性、主戦場を掴む趣旨でまとめている。

芝1600m以上

種牡馬名出走回数勝利数勝率連対率複勝率
キタサンブラック27725.9%33.3%40.7%
ドレフォン22418.2%22.7%27.3%
シルバーステート28310.7%28.6%35.7%
※ディープインパクト341029.4%47.1%55.9%

・先々のクラシックを睨んだ場合、このカテゴリーでの産駒成績は非常に重要となるが、キタサンブラック産駒の勝率25.9%は立派な数字。過去の新種牡馬の初年度産駒の9月末時点におけるこのカテゴリーでの勝率を以下に示すが、出走回数に違いはあるがほどんどの新種牡馬が20%以下の勝率しか残せていない。尚、2010年9月末時点のディープインパクト初年度産駒の勝率を上回っているが、ディープインパクト産駒は10月に10勝、11月に13勝と一気に勝ち鞍を積み上げており、秋の府中・京都開催以降に有望な新馬がデビューし続々と勝ち上がる、という例年のイメージ通りの結果を初年度から既に残している。

※参考:過去の新種牡馬の芝1600m以上での9月末時点での産駒成績

種牡馬名出走回数勝利数勝率
ハーツクライ2010年311032.30%
ディープインパクト2010年431023.30%
ルーラーシップ2016年39820.50%
ロードカナロア2017年701318.60%
キズナ2019年1091816.50%
ドゥラメンテ2020年821315.90%
モーリス2020年1021514.70%
ジャスタウェイ2018年711014.10%
ヴィクトワールピサ2015年36513.90%
エピファネイア2019年1041312.50%
ハービンジャー2014年58712.10%
ダイワメジャー2011年1061211.30%

芝1500m以下

種牡馬出走回数勝利数勝率連対率複勝率
シルバーステート28621.4%28.6%39.3%
ドレフォン4237.1%14.3%26.2%
キタサンブラック100.0%0.0%100.0%
※ロードカナロア28517.9%25.0%28.6%

シルバーステート産駒の好成績の要因はこのカテゴリーでの活躍ぶりになる。昨年の2歳戦でのデータになるが、9月末までの2歳戦で芝1500m以下のレース数は全体の53.3%を占めているが、10月以降はこの数字が38.6%になる。換言すると芝マイル以上のレースでどれだけ勝ち鞍を上げられるかが今後の産駒成績上昇には不可欠なファクターで、シルバーステート産駒に課された課題となる。

ダート

種牡馬出走回数勝利数勝率連対率複勝率
ドレフォン20525.0%40.0%45.0%
キタサンブラック3133.3%66.7%100.0%
シルバーステート300.0%0.0%0.0%
ヘニーヒューズ39615.4%28.2%38.5%

・ドレフォン産駒のダート適性の高さが現れているデータ。昨年の2歳戦でのデータになるが、9月末までの2歳戦でダートのレース数は全体の22.6%を占めているが、10月以降はこの数字が44.0%になる。ダートのレースが増える今後の2歳戦でドレフォン産駒がダートで勝ち鞍を積み上げていくであろうことは容易に想像出来る現況。芝の新馬戦で使われ、ダート変わりの未勝利戦で勝ち上がった産駒が3頭いるドレフォン産駒のこれまでの事例は今後も踏襲例が増えそうな印象である。

ノーザンファーム生産馬について

近5年の2歳戦でノーザンファーム生産馬がどれくらいの勝ち鞍をあげてきたのか、その割合を示したものが下表になる。

レース数勝利数勝率最多賞金獲得馬
2020639165勝25.82%ソダシ
2019652159勝24.39%サリオス
2018635176勝27.72%アドマイヤマーズ
2017636133勝20.91%ラッキーライラック
2016622115勝18.49%レイデオロ

JRAで行われる2歳戦の内、勝ち鞍の18.49~27.72%はノーザンファーム生産馬があげている、というデータは圧倒的なもので、種牡馬としての成功を収めるためにはノーザンファームに繋養されている繁殖牝馬とより多く交配出来れば or 交配されるようノーザンファームに選択されれば成功の可能性が直接的に上がることになる、という当たり前の事実をまず確認しておきたい。

以下は近5年のノーザンファーム生産馬の2歳戦における出走頭数と勝ち上がり頭数のデータになる。

出走頭数勝ち上がり馬数勝ち上がり率
2020381137頭35.96%
2019336131頭38.99%
2018340147頭43.24%
2017296115頭38.85%
201628096頭34.29%

勝ち上がり率34.29~43.24%とコンスタントに毎年2歳戦で出走馬が勝ち上がり、期間内で14R行われた2歳G1の内、9勝(朝日杯FS3勝、阪神ジュベナイルF4勝、ホープフルS2勝)をあげてきたのがノーザンファーム生産馬、ということになる。

種付実績

こうした実績を踏まえ、以下にまとめたものがドレフォン、シルバーステート、キタサンブラックの3頭が近3年、ノーザンファームの繁殖牝馬に何頭種付してきたのか、というリストである。直近の産駒成績の将来性を暗示するデータとしてご参照頂きたい。

種牡馬名2018年2019年2020年
ドレフォン45頭36頭32頭
シルバーステート12頭10頭5頭
キタサンブラック27頭25頭15頭

・言うまでも無く3頭の来年の種付頭数がどうなるかは、今年の2歳戦での産駒成績が勘案されるものと思われ、今後の2歳戦での成績はシビアに判定されていくものと思われる。ドレフォンは今後3世代は一定数はノーザンファーム生産馬が出てくることになるが、シルバーステートは昨年の種付頭数を見る限り、現2歳世代の活躍に今後の浮沈や、やや大げさな言い方をすると立身出世なるかがかかっている勝負どころを早くも向かえているように見える。キタサンブラックも同様で、昨年の種付頭数は前年より一気に減っており、評価を覆す活躍が今後求められる現況となるが、今後の2歳戦は中距離のレースが増えるため、これまでの傾向を踏まえると、より産駒の活躍の舞台が整う季節になる。

※昨年10月以降の2歳戦

全391R中
芝1800mのレース数:101R(25.83%)
芝2000mのレース数:51R(13.04%)

※昨年9月迄の2歳戦

全248R中
芝1800mのレース数:56R(22.58%)
芝2000mのレース数:20R(8.06%)

ノーザンファーム生産馬の状況

以下の表はドレフォン、シルバーステート、キタサンブラックの産駒の内、ノーザンファーム生産の現2歳馬の数とこれまでの勝ち上がり馬の頭数、これからデビューを向かえる馬の頭数をまとめたものになる。

種牡馬名NF生産馬頭数デビュー済頭数未出走頭数(在厩頭数)
ドレフォン332211(6)
シルバーステート716(2)
キタサンブラック21714(7)

勝ち上がり馬の内、ノーザンファーム生産馬の頭数が何頭いるのか、全体に占める比率はどれくらいなのかをまとめたものが以下になる。

種牡馬名勝ち上がり頭数NF生産馬の勝ち上がり馬頭数比率
ドレフォン11654.5%
シルバーステート700.0%
キタサンブラック8450.0%

ドレフォン、キタサンブラックのこれまでの勝ち上がり馬の内、半数以上がノーザンファーム生産馬が占めている。そうなると注目はこれからデビューを向かえるノーザンファーム生産馬の数になるが、14頭が未出走のキタサンブラック産駒の頭数の多さは今後、さらに産駒成績が伸びる可能性を暗示していると言える。シルバーステートもまだデビュー前のノーザンファーム生産馬が6頭おり、注目される。これらのこれからデビューを向かえるノーザンファーム生産馬の中に大物が含まれている可能性があり、今後の2歳戦の注目ポイントとなる。

競馬ブックスピード指数からみる産駒成績について

競馬ブックに掲載されるスピード指数を物差しとして使って、2歳戦での勝ち馬を評価することは出来るのか、過去のデータを遡って検証してみると新馬戦や未勝利戦での指数は道中のペースに影響されるため(換言するとスローペースの場合、指数が低くなりやすい)、その一戦だけで評価するのは難しい事が分かる。

参考として後にG1を制した馬が2歳時の勝ち上がり段階(新馬戦、未勝利戦)でどのような指数を出していたかをランダムに抽出して指数順にまとめると、以下のようになる。全体的にスローペースな程、指数が出にくい事がお分かり頂けるかと思われる。

馬名指数場と距離1000m通過レースラップ
グランアレグリア88東京芝160060.0秒
リスグラシュー80阪神芝180059.5秒
ワグネリアン73中京芝200067.0秒
コントレイル72阪神芝180062.8秒
サートゥルナーリア71阪神芝160062.7秒
レイデオロ70東京芝200063.3秒
ソウルスターリング69札幌芝180064.5秒

ちなみに上記の馬が2勝目をあげた時の指数は以下のようになる。メンバーがある程度強化されることで、極端なスローペースにはなりにくく、2勝目の段階では評価精度が上がる印象があるがいかがだろうか。

馬名指数場と距離1000m通過レースラップ
グランアレグリア93東京芝160059.9秒
リスグラシュー88東京芝160061.0秒
ワグネリアン89阪神芝180062.7秒
コントレイル99東京芝180058.8秒
サートゥルナーリア90京都芝180061.6秒
レイデオロ82中山芝200061.0秒
ソウルスターリング87東京芝180062.0秒

これまでの種牡馬別指数TOP5

あくまでも物差しとしてのデータ提示になるが、ドレフォン、シルバーステート、キタサンブラック各産駒のこれまでの指数TOP5をまとめたものが以下になる。

ドレフォン産駒TOP5

ジオグリフ(91・札幌2歳S/札幌芝1800・1000m通過60.3秒)
ヒステリックノヴァ(80・未勝利/中山ダ1200)
ジオグリフ(79・新馬/東京芝1800・1000m通過62.9秒)
コンシリエーレ(77・新馬/新潟ダ1800)
ハイアムズビーチ(77・新馬/東京芝1400)

・札幌2歳Sのジオグリフの指数91は昨年のソダシとほぼ同じで、近5年ではトップクラスの指数。ヒステリックノヴァの指数80も注目に値する数字。

シルバーステート産駒TOP5

ロン(89・野路菊S/中京芝2000・1000m通過60.5秒)
ベルウッドブラボー(87・ダリア賞/新潟芝1400)
リトス(78・未勝利/札幌芝1200)
ベルウッドブラボー(76・未勝利/福島芝1200)
コムストックロード(76・未勝利/東京芝1400)

・野路菊Sのロンの指数89は近5年の2歳オープン(芝2000m)では昨年の芙蓉Sを勝ったランドオブリバティが記録した91(中山芝2000・1000m通過61.8秒)に続く2番目の指数。同じ野路菊S(芝1800m)で比較すると2017年のワグネリアンと同じ指数になる。

キタサンブラック産駒TOP5

イクイノックス(78・新馬/新潟芝1800・1000m通過60.5秒)
オディロン(76・未勝利/中京ダ1800)
ドグマ(75・新馬/小倉芝1800・1000m通過64.5秒)
トゥーサン(73・新馬/中京芝2000・1000m通過67.1秒)
ジャスティンスカイ(73・未勝利/札幌芝2000・1000m通過61.3秒)

・勝ち上がったばかりの馬しかいないため、今後の注目は2勝目をあげた馬が出た際の指数になる。

初回まとめ

初回となる今回は3頭の新種牡馬のこれまでの概況を掴む趣旨でまとめてきたが、この時点で結論らしきものを提示するのはさすがに困難で、それまでのデータを積み上げて検証、推察していくことで結論らしきものを探っていくというアプローチを今後も取っていく予定である。

連載2回目となる次回は個別の産駒に着目しつつ、10月末までのトータルの成績推移に触れていく予定で、今回は触れなかったドレフォン、シルバーステート、キタサンブラック以外の新種牡馬についても言及出来ればと考えている。