今回はポストディープの座を巡る争いを考察していく上で、世代ごとにまとめたデータを用い、対象期間を2歳戦開始から3歳10月末までに設定しデータを検証している。
※用いたデータは全てJRA、平地でのものになる。
1・世代ごとのデータから見る産駒成績について
ディープインパクト
・まずディープインパクトの世代ごとの産駒データを示す。2020年産まれのディープインパクトのラストクロップ(現1歳)はごく僅かになるため、これだけの部分がすっぽり抜け落ちて、他の種牡馬の産駒に回ることになるのが、来年以降の構図になる。例年6割近い産駒が勝ち上がり、以下には示していないが連対率は27.1%~34.5%、複勝率は35.0%~46.3%を記録しており、不世出の種牡馬であることを数字が表している。
産 | 1着 | 勝率 | 出走頭数 | 勝ち上がり頭数 | 率 |
---|---|---|---|---|---|
2008 | 131 | 16.3% | 130 | 83 | 63.8% |
2009 | 140 | 15.6% | 146 | 86 | 58.9% |
2010 | 115 | 16.1% | 112 | 77 | 68.8% |
2011 | 125 | 14.9% | 130 | 80 | 61.5% |
2012 | 117 | 14.0% | 134 | 71 | 53.0% |
2013 | 147 | 17.6% | 137 | 90 | 65.7% |
2014 | 133 | 15.3% | 148 | 90 | 60.8% |
2015 | 159 | 17.6% | 154 | 102 | 66.2% |
2016 | 159 | 20.8% | 139 | 94 | 67.6% |
2017 | 150 | 19.0% | 144 | 90 | 62.5% |
2018 | 110 | 16.7% | 126 | 68 | 54.0% |
ロードカナロア
・勝率が近2世代やや下がり気味。1stクロップ(アーモンドアイ、ダノンスマッシュ)、2ndクロップ(サートゥルナーリア)の勢いがやや鈍っている印象だが、1stクロップが2歳戦で猛威を振るったのが2017年。これを受けて翌2018年には前年より57頭多い307頭に種付けされており、翌2019年に産まれた世代が現2歳馬。アーモンドアイの牝馬3冠、ジャパンC制覇やサートゥルナーリアのホープフルS制覇を受けた2019年に種付けされ、2020年に産まれた現1歳馬も含め、この2世代でどれだけの結果を残せるか、が当面の焦点になる印象。
産 | 1着 | 勝率 | 出走頭数 | 勝ち上がり頭数 | 率 |
---|---|---|---|---|---|
2015 | 98 | 12.0% | 148 | 70 | 47.3% |
2016 | 116 | 12.7% | 176 | 69 | 39.2% |
2017 | 77 | 10.0% | 140 | 56 | 40.0% |
2018 | 83 | 10.3% | 152 | 61 | 40.1% |
キズナ
・勝ち上がり率が2世代とも40%超なのは優秀だが、血統登録頭数は182頭(現4歳)→138頭(現3歳)→111頭(現2歳)→107頭(現1歳)と右肩下がりになる。だが、1stクロップの2歳戦での活躍を受けて2020年の種付頭数は前年比78頭増の242頭となっており、今年産まれの当歳馬には大物が含まれている可能性が高い点については前回のコラムでも触れている。再来年の2歳戦でのキズナ産駒には要注目である。
産 | 1着 | 勝率 | 出走頭数 | 勝ち上がり頭数 | 率 |
---|---|---|---|---|---|
2017 | 110 | 10.5% | 160 | 69 | 43.1% |
2018 | 79 | 9.6% | 121 | 55 | 45.5% |
エピファネイア
・勝率が10%未満、勝ち上がり率が40%未満な点がエピファネイア産駒の目立つ点。これをどうみるかは見解が分かれそうで、デアリングタクト(1stクロップ)、エフフォーリア(2ndクロップ)が出ているから多少の率の悪さには目をつぶる、とする向きもあろうし、勝ち上がれない産駒の多さに着目し、物足りないとする向きもあろう。ただ、上記2頭のG1馬、アリストテレス、サークルオブライフ、オーソクレースは全てサンデーサイレンスの3×4のクロスを持っている共通点があり、母父がサンデーサイレンス直仔の繁殖牝馬との配合や、母母父がサンデーサイレンスの繁殖牝馬との配合で成功例を積み重ねている強みは、該当する繁殖牝馬がかなりの数にのぼるため、この上ない強みとなろう。
産 | 1着 | 勝率 | 出走頭数 | 勝ち上がり頭数 | 率 |
---|---|---|---|---|---|
2017 | 73 | 9.2% | 134 | 51 | 38.1% |
2018 | 71 | 9.0% | 128 | 49 | 38.3% |
モーリス
・勝ち上がり率44.8%は高い数字。ただ、モーリス産駒は種付頭数が265頭(2017年)→245頭(2018年)→212頭(2019年)→165頭(2020年)と右肩下がりの状況で、現1歳、現当歳はやや頭数が少なくなる。モーリスは父・スクリーンヒーローの母父がサンデーサイレンスになるため、産駒の血統表の「4」の位置にサンデーサイレンスがいる。配合相手がディープインパクトの肌の場合、サンデーサイレンスの3×4のクロスができ、ルークズネスト、ジェラルディーナらはこのケースに該当する。また配合相手がキングカメハメハ産駒でその母父がサンデーサイレンス、といったケースでも同じくサンデーサイレンスの3×4のクロスが発生する点はエピファネイアと同じで、強みもまた同じとなる。
産 | 1着 | 勝率 | 出走頭数 | 勝ち上がり頭数 | 率 |
---|---|---|---|---|---|
2018 | 94 | 11.4% | 145 | 65 | 44.8% |
ドゥラメンテ
・今年亡くなったため残した世代は5世代のみになり、種付頭数は284頭(2017年)→294頭(2018年)→184頭(2019年)→178頭(2020年)とモーリス同様、右肩下がりの状況。タイトルホルダーに続く2頭目の重賞勝ち馬の出現が早期に求められるところだが、残された産駒に大物が含まれているか。
産 | 1着 | 勝率 | 出走頭数 | 勝ち上がり頭数 | 率 |
---|---|---|---|---|---|
2018 | 90 | 10.6% | 158 | 61 | 38.6% |
2・ポストディープとポストサンデーの違いについて
・サンデーサイレンスの1stクロップは1992年産まれ。以後、「サンデーサイレンスの時代」が長く続き、サンデーサイレンスのラストクロップは2003年産まれ。4世代挟んで、ディープインパクトの1stクロップは2008年産まれ。以後、「ディープインパクトの時代」が10年以上続くことになる。サンデーサイレンス産駒がいなくなった2004~2007年産まれの世代において、覇権争いはどうなっていたのか、簡単におさらいしてみることに意味はあると思われ、簡単に推移をまとめてみる。尚、用いたデータは対象期間を2歳戦開始から3歳10月末までに設定したもので、JRA、平地でのものになる。
2004年産まれの世代
・アグネスタキオンが1着数1位。以下、ダンスインザダーク、クロフネ、スペシャルウィークの順。この4頭はいずれも種付頭数が増えていた種牡馬で、それまでサンデーサイレンスに回っていた肌がこれらの種牡馬に回ってきたという構図。この4頭の種牡馬の内、クラシックホースを出したのはアグネスタキオン(ダイワスカーレット)のみ。
・当時のBMSの勢力図はサンデーサイレンスの1強状態で、BMS・サンデーサイレンスは118勝、2位のBMS・トニービンが65勝、3位のBMS・ノーザンテーストが58勝。こうした状況は現在とは異なるが、クオリティの高いサンデーの肌が圧倒的に多い状況を利する非サンデー系の種牡馬が台頭するであろうことは容易に想像出来よう。
2005年産まれの世代
・新種牡馬・シンボリクリスエスが1着数1位。以下、アグネスタキオン、クロフネ、アグネスデジタル(新種牡馬)、ダンスインザダークの順。シンボリクリスエスには大きな期待がかけられたが、勝率、連対率、複勝率は全てアグネスタキオン以下となり、ディープスカイ、キャプテントゥーレを出したアグネスタキオンが中身の濃さでは圧倒した世代。
・ポストディープ世代でもこの世代のシンボリクリスエスのように大きな期待を集める新種牡馬が出てこようが、まず思いつくのがレイデオロ(※昨年の種付頭数は196頭)。ディープインパクト牝駒との配合ではウインドインハーヘアの3×4の牝馬クロスが発生するが、今年産まれの当歳にはヴィルシーナ、マリアライト、シンハライト、ラキシスらのディープインパクト牝駒の仔が含まれている。一気にポストディープの座を巡る争いの最前線に躍り出る可能性を秘めているようにも思えるがいかがだろうか。
・この世代の「BMS・サンデーサイレンス」の中で出走回数TOP2はシンボリクリスエス(1stクロップ)とタニノギムレット(2ndクロップ)になるが、1着数、勝率、連対率、複勝率は全てシンボリクリスエスが上回っており、シンボリクリスエスはサクセスブロッケン、タニノギムレットはスマイルジャックを輩出。
2006年産まれの世代
・新種牡馬・キングカメハメハが1着数1位。以下、シンボリクリスエス、マンハッタンカフェ、スペシャルウィーク、アグネスタキオンの順。この5頭の中では勝率、連対率、複勝率は全てアグネスタキオンがトップ。キングカメハメハの1stクロップは3歳10月末までに重賞を勝った馬はフィフスペトル(函館2歳S)のみ。シンボリクリスエスの2ndクロップは3歳10月末までにアプレザンレーヴ(青葉賞)、サンカルロ(ニュージーランドT)の2頭が重賞勝ち。
・BMS1着数1位はサンデーサイレンスだが、1着数は2位のトニービンの2倍超になる164勝。この世代のBMS・サンデーサイレンスのキングカメハメハ産駒は勝利数(9勝)、勝率(8.0%)、連対率(17.9%)、複勝率(27.7%)で、特に目立った成績は出せていない。
2007年産まれの世代
・キングカメハメハが2年連続で1着数1位。以下、クロフネ、フジキセキの順。クロフネ(+67・フサイチリシャールの2歳G1勝ちの翌年に種付頭数増加)とフジキセキ(+67・カネヒキリの活躍を受けて種付頭数増加)は前年より大幅に種付頭数が増えた時の世代で、シンボリクリスエスは逆に前年より種付頭数が44頭減となった時の世代。
・キングカメハメハの産駒成績が一気に改善した世代で、1stクロップからは3歳10月末時点で重賞勝ち馬を1頭しか出せていなかったが、2ndクロップからアパパネ、ローズキングダム、ショウリュウムーン、コスモセンサーの4頭を輩出。勝率(9.9%→12.4%)、連対率(20.7%→21.6%)、複勝率(30.1%→31.5%)と各数値も大幅に良化。
・BMS1着数1位はサンデーサイレンスだが、1着数は2位のトニービンの2.3倍になる212勝。前年の164勝から一気に48勝増となり、前年よりも寡占化が深化。BMSサンデーサイレンスの中で父の出走回数TOP3はクロフネ、キングカメハメハ、シンボリクリスエスとなるが、この3頭は1着数、勝率、連対率、複勝率が全てクロフネ→キングカメハメハ→シンボリクリスエスの順。ただ、中身の濃さではローズキングダム、トゥザグローリーを出したキングカメハメハが圧倒している。
3・母に注目したデータについて
・今週、アメリカのファシィグティプトン社ノベンバーセールにて、ノーザンファームがG1馬やG1馬の母、重賞勝ち馬など6頭の繁殖牝馬を1272万5000米ドルにて落札した、というニュースが話題となったが、こうした各生産者の繁殖牝馬への投資が形としてどう表れているのか、の一端を示すために、海外産の繁殖牝馬が生んだG1馬と日本産の繁殖牝馬が生んだG1馬の比率を比較してみたのが以下のリストになる。対象は日本調教馬の平地G1(級)競走で、海外移籍後にG1を勝ったケースはノーカウントとしている。
サンデーサイレンス
母が海外産のG1(級)競走勝ち馬:27頭(62.79%)
母が日本産のG1(級)競走勝ち馬:16頭(37.21%)
ディープインパクト
母が海外産のG1(級)競走勝ち馬:31頭(67.39%)
母が日本産のG1(級)競走勝ち馬:15頭(32.61%)
ハーツクライ
母が海外産のG1(級)競走勝ち馬:4頭(40.0%)
母が日本産のG1(級)競走勝ち馬:6頭(60.0%)
キングカメハメハ
母が海外産のG1(級)競走勝ち馬:2頭(13.33%)
母が日本産のG1(級)競走勝ち馬:13頭(86.67%)
・サンデーサイレンス、ディープインパクトの主な産駒を改めて振り返ると、海外産の母から産まれた産駒が圧倒的な実績を残してきたことが分かる。ただ、ハーツクライ、キングカメハメハ産駒になると比率が逆転し、母が日本産のG1(級)競走勝ち馬のほうが多く出ている。
・これは単純に海外産の肌との交配相手としてファーストチョイスがどうしてもディープインパクトになることが多く、これらの種牡馬への種付回数が少なくなっていると思われることが関係していようが、既に絶対的なファーストチョイスだったディープインパクトは不在。海外産の肌の交配相手動向がどうなるか、は今後の大きな注目ポイントとなることは確かだろう。
母が海外産のJRA平地重賞勝ち馬:2頭(10.53%)
母が日本産のJRA平地重賞勝ち馬:17頭(89.47%)
母が海外産のJRA平地重賞勝ち馬:2頭(22.22%)
母が日本産のJRA平地重賞勝ち馬:7頭(77.78%)
母が海外産のJRA平地重賞勝ち馬:0頭(0%)
母が日本産のJRA平地重賞勝ち馬:4頭(100%)
母が海外産のJRA平地重賞勝ち馬:0頭(0%)
母が日本産のJRA平地重賞勝ち馬:3頭(100%)
母が海外産のJRA平地重賞勝ち馬:1頭(100%)
母が日本産のJRA平地重賞勝ち馬:0頭(0%)