前稿(下記にリンクを掲載)に続いてサンデーサイレンス(以下、SSと表記)のインブリードについて考察を進めていく。今回は、オルフェーヴル産駒・キズナ産駒・ジャスタウェイ産駒の現況を掘り下げる。競走成績は2021/11/14開催終了時点。

コラム・配合論考【1】サンデーサイレンスのインブリードを評価する

注)種牡馬別に考察する理由は2つ。①種牡馬によって世代数・産駒数が異なるために合算すると傾向が把握しづらくなる、②インブリードの狙いはクロスさせる祖先馬の良質な部分を強調することにあるといえるだろうが、同じSS系の有力種牡馬であってもSSの良質の遺伝子を等しく受け継いでいるわけではなく種牡馬によってインブリード効果の強弱が出ることがありうるのではないか⇒インブリード効果が顕著な種牡馬が判明するならそれは情報として有用である、ことによる。

ケーススタディ①:オルフェーヴル産駒のSSインブリード効果の現況

オルフェーヴルの初年度産駒は現在6歳を迎えており、競走年齢に達しているのは5世代、650頭。この中から13頭の重賞勝ち馬が出ている。列記すると、

(初年度産駒:現6歳)
ラッキーライラック G1大阪杯/2000, G1エリザベス女王杯/2200×2回, G1阪神ジュヴェナイルF/1600, G2 チューリップ賞/1600, G3アルテミスS/1600
エポカドーロ G1皐月賞/2000
バイオスパーク G3福島記念/2000
サラス G3マーメイドS/2000
ロックディスタウン G3札幌2歳S/1800

(2年目産駒:現5歳)
オセアグレイト G2ステイヤーズS/3600
ショウリュウイクゾ G2日経新春杯/2200
マルシュロレーヌ J2エンプレス杯/D2100, J2レディスプレリュード/D1800, J3ブリーダーズGC/D2000, J3TCK女王盃/D1800, 米G1BCディスタフ
ジャスティン J2東京盃/D1200, G3カペラS/D1200
アンドラステ G3中京記念/1800

(3年目産駒:現4歳)
オーソリティ G2青葉賞/2400, G2AR共和国杯/2500×2
シャインガーネット G3ファルコンS/1400

(4年目産駒:現3歳)
ラーゴム G3きさらぎ賞/2000

(5年目産駒:現2歳)
なし

上記の内、SSのインブリード馬は赤字で示したショウリュウイクゾ・オーソリティの2頭(ともに3×4)、非インブリード馬が11頭。この事実の羅列だけなら、インブリード馬に着目する理由はないように映るが、実際には3×4のインブリード馬の頭数は650頭の内、46頭に過ぎないため、重賞勝馬の輩出率ではダブルスコアで優っている。

SS3×4 4.3%(2/46)
SS3×3 0.0%(0/56)
その他 2.0%(11/548)

注)ここでSS3×3の実績も優れていればインブリードの効果がより明快という側面はある。一方で、3×3というインブリードは、濃度が過多かもしれない(リスクがある)という懸念が先験的に存在していることが指摘できる。

前回触れたように、この分析では母集団に偏りが生じており、上記SS3×4、SS3×3該当の102頭(46+56)の内、母父が横文字の馬(母がいわゆる持込か、輸入馬)は僅か3頭(いずれもSS3×3)であるのに対し、その他の548頭の内、母父が横文字となっているのは321頭と過半(59%)に達している。上記の「その他」をさらに細分化すると以下の通りとなり、母父が横文字でない産駒との比較では、差が拡大する(上記のSS3×4の4.3%と、下記のその他・それ以外の1.3%との比較)。

その他・母父が横文字 2.5%(8/321)
その他・それ以外 1.3%(3/227)

注)言うまでもないことだが、SSのインブリード馬の「母父横文字」が僅かしか存在しないのは、現状日本国外の馬がSSの血をもっていること自体が稀であるため(現時点ではSSは海外では零細血脈にすぎない)。

注)本稿の趣旨とは異なるためここでは深追いしないが、母父が横文字の牝馬はそうでない牝馬と比較してどれくらい優秀か、という問題は検討に値する。海外からの牝馬導入は、原則的には、競争力のある牧場が繁殖の質をさらに底上げすることを企図してなされるケースが多い、と考えられるため、現存している国内の繁殖牝馬より総じて質が高いと想定するのが自然だろう。しかし、実際のところは、以下示す通り、差が明白とまではいえないようだ。一つ考えうる説明としては、輸入牝馬が極めて有望と考えられている内はディープインパクトやハーツクライなどの実績の際立った種牡馬がまずは考慮され、そうでない牝馬にそれ以外の種牡馬が選択されてきた、ということだろうか。

他のキーデータも以下参考に記載しておく。ここでもSS3×4の優秀なデータが観察さる一方、SS3×3はリスクが大きいように見える(勝ち上がり率の低さが目立つ)。

【累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS3×4 13.1%・51.5%
SS3×3 8.1%・24.2%
その他 8.6%・34.8%
(内、その他・母父が横文字 8.6%・34.1%)
(内、その他・それ以外 8.7%・35.8%)

ところで、本稿冒頭の注意書きで、「インブリードの狙いはクロスさせる祖先馬の良質な部分を強調すること」、としたが、インブリード馬とそうでない馬とで勝利距離や勝利レースの芝・ダ比率に違いがあるか(SSのインブリードは何を強調するのか)を探ってみた結果は下記の通り。率直に言って、この数字から何かを言うのは容易ではなさそうである。

【平均勝利距離・勝利レースの芝比率】
SS3×4 1805m・58%
SS3×3 1695m・75%
その他 1787m・58%

ケーススタディ②:キズナ産駒のSSインブリード効果の現況

同様にキズナ産駒の現況を以下にまとめている。アカイイトが念願の初G1タイトルをもたらしたキズナは初年度産駒が現4歳。競走年齢に達しているのは3世代で431頭、この中から11頭の重賞勝ち馬が出ている。

(初年度産駒:現4歳)
アカイイト G1エ女王杯/2200
ディープボンド G2京都新聞杯/2200, G2阪神大賞典/3000, 仏G2フォワ賞/2400
マルターズディオサ G2チューリップ賞/1600, G3紫苑S/2000
ビアンフェ G3函館SP/1200, G3函館2歳S/1200, 葵S/1200
アブレイズ G3フラワーC/1800
シャムロックヒル G3マーメイドS/2000
クリスタルブラック G3京成杯/2000
キメラヴェリテ J3北海道2歳/D1800

(2年目産駒:現3歳)
バスラットレオン G2NZトロフィー/1600
ファインルージュ G3フェアリーS/1600, G3紫苑S/2000
ソングライン G2富士S/1600

(3年目産駒:現2歳)
なし

オルフェーヴル産駒と比べるとサンプルとなる頭数がやや少ない点に留意しつつ、以下進める。上記の内、SSのインブリード馬は赤字で示したファインルージュ・ソングラインの2頭(ともに3×4)、非インブリード馬が9頭。頭数的には非インブリード馬に軍配が上がるが、オルフェーヴルのケースと同様、インブリード馬の構成比は低く、重賞勝馬の輩出率ではSS3×4が秀でている。

SS3×4 6.7%(2/30)
SS3×3 0.0%(0/32)
その他 2.4%(9/369)

インブリード馬で母父が横文字の馬(母がいわゆる持込か、輸入馬)は僅か1頭(SS3×3)で、その他の369頭の内、母父が横文字となっているのは161頭と半分弱の構成比(44%)。「その他」をさらに細分化すると以下の通りで、ここではほぼ同様の重賞勝馬の輩出率となっている。

その他・母父が横文字 2.5%(4/161)
その他・それ以外 2.4%(5/208)

勝率・勝ち上がり率データは下記の通り。ここまでオルフェーヴル産駒と概ね類似した傾向が確認できていたが、ここで、キズナ産駒ではインブリード馬の勝ち上がり率が劣る、という現象が観察される(この点については最後に触れる)。

【累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS3×4 11.5%・37.5%
SS3×3 5.9%・23.5%
その他 10.2%・47.8%
(内、その他・母父が横文字 10.1%・52.0%)
(内、その他・それ以外 10.4%・44.9%)

平均勝利距離・勝利レースの芝ダ比率は下記の通り。数値の相違は興味を惹くものの、この点についてはもう少しデータサンプルが増えた上で検討を加えたい。

【平均勝利距離・勝利レースの芝比率】
SS3×4 1829m・94%
SS3×3 1686m・43%
その他 1715m・61%

ケーススタディ③:ジャスタウェイ産駒のSSインブリード効果の現況

続いてジャスタウェイ産駒の現況。初年度産駒は現5歳、競走年齢に達しているのは4世代で416頭、この中から7頭の重賞勝ち馬が出ている。

(初年度産駒:現5歳)
マスターフェンサー J2名古屋GP/D2500, J3マーキュリーC/D2000×2回, J3白山大賞典/D2100
アウィルアウェイ G3シルクロードS/1200
ロードマイウェイ G3チャレンジC/2000
アドマイヤジャスタ G3函館記念/2000
テオレーマ J1JBCレディスC/D1500, J3マリーンC/D1800

(2年目産駒:現4歳)
エーポス G2フィリーズR/1400

(3年目産駒:現3歳)
ダノンザキッド G1ホープフルS/2000, G3東スポ2歳S/1800

(4年目産駒:現2歳)
なし

上記の内、SSのインブリード馬による重賞勝ちはまだなく、輩出率は以下の通りとなる。

SS3×4 0.0%(0/35)
SS3×3 0.0%(0/33)
その他 2.0%(7/348)

インブリード馬で母父が横文字の馬(母がいわゆる持込か、輸入馬)は該当0、その他の348頭の内、母父が横文字となっているのは148頭と半分弱の構成比(43%)。「その他」をさらに細分化すると以下の通りとなっている。

その他・母父が横文字 2.7%(4/148)
その他・それ以外 1.5%(3/200)

勝率・勝ち上がり率データは下記の通り。ここではSS3×4の数値が相対的に良好となっている。

【累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS3×4 8.3%・40.0%
SS3×3 6.7%・17.9%
その他 7.6%・36.7%
(内、その他・母父が横文字 8.1%・39.6%)
(内、その他・それ以外 7.0%・33.9%)

平均勝利距離・勝利レースの芝ダ比率は下記の通り(オルフェーヴル産駒・キズナ産駒のケース同様、SS3×3の勝利距離が短くなるのは気性的なものが影響しているのだろうか)。

【平均勝利距離・勝利レースの芝比率】
SS3×4 1713m・89%
SS3×3 1517m・67%
その他 1752m・61%

まとめ

今回の内容からは、①SS3×3は疑問である(インブリードの効果が不明というレベルではなく、避けた方が無難、というゾーンにある可能性がある)一方、②SS3×4については、比較対象として妥当と思われる、「非インブリード馬の内、母父が横文字でない(母が持込・輸入でない)」データとの比較を再掲すると以下の通りで、全般に有効性が示唆されていると思われる。種牡馬別にはオルフェーヴル産駒のSS3×4の優位性が目立っているようだ。

【オルフェーヴル産駒:重賞勝馬輩出率・累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS3×4 4.3%・13.1%・51.5%
その他(母父が横文字でない) 1.3%・8.7%・35.8%

【キズナ産駒:重賞勝馬輩出率・累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS3×4 6.7%・11.5%・37.5%
その他(母父が横文字でない) 2.4%・10.4%・44.9%

【ジャスタウェイ産駒:重賞勝馬輩出率・累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS3×4 0.0%・8.3%・40.0%
その他(母父が横文字でない) 1.5%・7.0%・33.9%

しかし、まとめ、という表題にはしてあるものの、この段階で結論を出す気はなく、次回も引き続き種牡馬別の考察を重ねていく予定。インブリードは、その理屈から推察すると、(優秀な遺伝子が強調されて)生産馬に恩恵をもたらす確率はあるものの、それは実際に確率的(くじ引き的)に起きるに過ぎず、そのくじ引きにはずれた場合にはインブリード固有のリスクだけが残される、ものと解される。前述のキズナ産駒のインブリード馬の勝ち上がり率データの低さあたりに表出しているのかもしれない、負となる部分(リスク)についての精査、理解は、必要なプロセスとなるのではないだろうか。単に「リスクゼロで抽選チャンスがある」類いのものなら、もう少し気楽に結論も出せるのだろうが。

今回取り上げたオルフェーヴル産駒・キズナ産駒・ジャスタウェイ産駒のインブリード馬のアップデートについては、種牡馬データファイルの方で逐次行っていくので、最新の状況はそちらで参照をいただきたい。