前稿では、オルフェーヴル、キズナ、ジャスタウェイ、のサンデーサイレンス(以下、SSと表記)のインブリード馬実績を考察した。続いて今回は、エピファネイア、モーリス、リオンディーズ、の3頭をとりあげる。競走成績は2021/12/12開催終了時点。なお、分析手法の説明や注意書き等、前回と重複する内容は適宜割愛しているので、本稿が初見という方は前回分を一読されることをおすすめしたい。
コラム・配合論考【2】続・サンデーサイレンスのインブリードを評価する
ケーススタディ④:エピファネイア産駒のSSインブリード効果の現況
エピファネイアは、前回取り上げたオルフェーヴル、キズナらSS孫世代との比較上、1世代SSの位置が遠のく関係で、SS系牝馬の配合選択として採用されるケースが急増、産駒に占めるSSインブリード馬の比率が非常に高くなっている(モーリス、リオンディーズもこのパターンにあてはまる)。初年度産駒は現在4歳を迎え、競走年齢に達しているのは3世代、血統登録頭数436頭。この中から4頭の重賞勝ち馬が出ている。
(初年度産駒:現4歳)
デアリングタクト G1桜花賞/1600, G1オークス/2400 G1秋華賞/2000
アリストテレス G2アメリカJCC/2200
(2年目産駒:現3歳)
エフフォーリア G1皐月賞/2000, G1天皇賞(秋)/2000, G3共同通信杯/1800
(3年目産駒:現2歳)
サークルオブライフ G1阪神ジュベナイルF/1600, G3アルテミスS/1600
赤字で示したのがSSインブリード馬で、見ての通り全馬がインブリード馬と極端な結果となっている(全てSS4×3)。ただし、重賞勝馬が4頭とまだサンプル数が限られる点、4×3のインブリード馬の頭数は以下示す通り304頭、全体の70%とかなり高い比率を占めている点、に留意。
注)純粋に数学的には、全体の70%の内から4連続でアタリが出る確率は24%となる
a 頭数 | 構成比 | b 重賞勝馬頭数 | b/a 輩出率 | |
SS4×2 | 3 | 0.7% | 0 | 0.0% |
SS4×3 | 304 | 69.7% | 4 | 1.3% |
SS4×4 | 36 | 8.3% | 0 | 0.0% |
その他 | 93 | 21.3% | 0 | 0.0% |
合計 | 436 | 100.0% | 4 | 0.9% |
この分析では母集団に偏りが生じている(この点については前回も触れた)。それは、SSインブリード馬のほとんどが内国産の繁殖牝馬との交配で生まれているのに対し、その他(非インブリード馬)は母父が横文字となっている(母が持込、輸入)ケースがかなり多いという点。総じて持込、輸入の繁殖牝馬の方が質が高いと考えられるため、なるべく近い牝馬の質同士で比較するには、母父が横文字でない牝馬、との差を把握するのがよいのではないだろうか。上記のエピファネイアの重賞勝馬輩出率については、しかし、その他に重賞勝馬が現状ないため、ここでは詳細は割愛する。ちなみにその他の93頭の内、母父が横文字となっているのは42頭、SSインブリード馬の内、母父が横文字となっているのは僅か4頭となっている。
勝率・勝ち上がり率は以下の通り。ここでは、SSインブリードのプラス効果がかなり明瞭に見て取れる。前回取り上げた中でインブリード実績が目立っていたオルフェーヴルを凌駕する良好なデータ、と言えそうだ。
【累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS4×3 10.1%・42.5%
SS4×4 9.2%・33.3%
その他 7.8%・27.7%
(内、その他・母父が横文字 8.4%・35.5%)
(内、その他・それ以外 7.2%・20.6%)
注)SS4×2は該当3頭しかないため上記に載せていないが、この3頭の中にサトノヘリオスという大物候補(現2歳、エリカ賞の勝馬で3戦2勝、年末のホープフルSに登録がある)がおり動向が注目される。しかしSS4×2というインブリードについて考察する意義自体は、SS直仔の最終世代の牝馬が年明けには19歳とかなりの高齢となるためにもうほとんど存在しないことになる。参考に、SS4×2の3頭の残り2頭は1頭が現4歳で未出走、もう1頭が現2歳で1戦着外となっている。
SSインブリード馬の距離、芝ダートの適正を考察するために集計したのが以下のデータ。ここからはSSインブリード馬の芝適正の高さが暗示されているようにみえる(ただし、他の種牡馬の産駒では異なるパターンもみられる)。
【平均勝利距離・勝利レースの芝比率】
SS4×3 1790m・91%
SS4×4 1890m・87%
その他 1780m・59%
ケーススタディ⑤:モーリス産駒のSSインブリード効果の現況
続いてモーリス産駒。モーリスは初年度産駒が現3歳で競走年齢に達しているのは2世代に過ぎないが、産駒数が多く、血統登録数はこの2世代で計339頭に上り、この中から3頭の重賞勝馬が出ている。
(初年度産駒:現3歳)
ピクシーナイト G1スプリンターズS/1200, G3シンザン記念/1600
シゲルピンクルビー G2フィリーズR/1400
ルークズネスト G3ファルコンS/1400
(2年目産駒:現2歳)
なし
上記の内、SSのインブリード馬は赤字で示したルークズネスト(SS4×3)、非インブリード馬が2頭。SSインブリード馬の比率が高いため、重賞勝馬の輩出率ではその他(非インブリード馬)が優っている状況となっている。
a 頭数 | 構成比 | b 重賞勝馬頭数 | b/a 輩出率 | |
SS4×2 | 4 | 1.2% | 0 | 0.0% |
SS4×3 | 217 | 64.0% | 1 | 0.5% |
SS4×4 | 24 | 7.1% | 0 | 0.0% |
その他 | 94 | 27.7% | 2 | 2.1% |
合計 | 339 | 100.0% | 3 | 0.9% |
上記のその他をさらに、母父が横文字(持込、輸入)かどうかで細分化すると以下の通りとなる。
a 頭数 | 構成比 | b 重賞勝馬頭数 | b/a 輩出率 | |
(母父横文字) | 40 | 42.6% | 1 | 2.5% |
(その他) | 54 | 57.4% | 1 | 1.9% |
勝率・勝ち上がり率データは下記の通り。SS4×3のデータはなかなかのものと映るが、SS4×4では鮮明ではないようだ(該当頭数はかなり少ない)。
【累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS4×3 12.0%・51.5%
SS4×4 14.8%・25.0%
その他 10.7%・41.7%
(内、その他・母父が横文字 13.0%・42.1%)
(内、その他・それ以外 8.3%・41.2%)
注)僅か4頭のSS4×2(上記には記載していない)の状況は、1頭ピクシーカットが勝ち上がり(10戦1勝)、2頭が未勝利・入着なし、1頭が未出走
平均勝利距離・勝利レースの芝ダ比率は下記の通り。エピファネイアのケース同様、インブリード馬の芝適正がやや高めに出ているようだ。
【平均勝利距離・勝利レースの芝比率】
SS4×3 1661m・76%
SS4×4 1822m・100%
その他 1550m・67%
ケーススタディ⑥:リオンディーズ産駒のSSインブリード効果の現況
最後にリオンディーズ産駒。種牡馬デビューはモーリスと同期で、初年度産駒は現3歳、競走年齢に達しているのは2世代で239頭、この中から2頭の重賞勝ち馬が出ている。
注)ピンクカメハメハ(SSインブリードはなし)が本年2月のサウジダービーを制しているが、同レースは重賞に格付けされるのは2022年からとなる(サウジダービーはG3となる)
(初年度産駒:現3歳)
リプレーザ J2兵庫CS/D1800
(2年目産駒:現2歳)
ジャスティンロック G3京都2歳S/2000
2頭とも、SSのインブリード馬(ともにSS4×3)。輩出率は以下の通り。
a 頭数 | 構成比 | b 重賞勝馬頭数 | b/a 輩出率 | |
SS4×2 | 1 | 0.4% | 0 | 0.0% |
SS4×3 | 129 | 54.0% | 2 | 1.6% |
SS4×4 | 29 | 12.1% | 0 | 0.0% |
その他 | 80 | 33.5% | 0 | 0.0% |
合計 | 239 | 100.0% | 2 | 0.8% |
なお、その他に占める母父が横文字の比率は24%とエピファネイア・モーリスの例に比べやや低めとなっている。
勝率・勝ち上がり率データは下記の通り。SS4×3の数値は良好だが、SS4×4はイマイチ(該当頭数はかなり少ない)、というモーリスのケースに類似した結果となっている。
【累計勝率・勝ち上がり率(2歳世代を除く)】
SS4×3 11.5%・37.5%
SS4×4 4.2%・25.0%
その他 6.6%・30.8%
(内、その他・母父が横文字 8.9%・27.3%)
(内、その他・それ以外 5.8%・32.1%)
注)1頭のSS4×2馬は未勝利
平均勝利距離・勝利レースの芝ダ比率は下記の通り。ここではSSインブリードの芝適正が高いという上記2例の傾向はあてはまらない。
【平均勝利距離・勝利レースの芝比率】
SS4×3 1700m・59%
SS4×4 1550m・75%
その他 1603m・84%
まとめ
今回はSS曾孫世代の代表的な種牡馬3頭の状況を集計した。現状、分析対象となるのは主にSS4×3のインブリード(SS4×4についてはまだ該当頭数が少ない)となる。
ここで、前回のSS孫世代のSS3×4の事例と合わせて(注:1か月が経過し、データは前回から若干変化している)全体像を呈示することとし、これをどの程度有効と読み解くか、は読者の判断に委ねることとしたい。なお、比較対象とする非インブリード馬は、その他(母父が横文字でない)、が最適と考えピックアップしており(理由は上記エピファネイアの項、「この分析では母集団に偏りが生じている~」を参照)、追加的に参考データとして非インブリード馬全体の数値も示している。
なお、今回とりあげた種牡馬のインブリード実績の状況は、種牡馬データファイルの方で更新していく。
SS3×4、SS4×3のインブリード馬の集計結果
重賞勝馬輩出率 | 勝率 | 勝ち上がり率 | |
オルフェーヴル | 4.3% | 13.1% | 51.5% |
キズナ | 6.7% | 11.5% | 37.5% |
ジャスタウェイ | 0.0% | 8.6% | 40.0% |
エピファネイア | 1.3% | 10.1% | 42.5% |
モーリス | 0.5% | 12.0% | 51.5% |
リオンディーズ | 1.6% | 11.5% | 37.5% |
(単純平均) | 2.4% | 11.1% | 43.4% |
その他(非インブリード、母父が横文字でない)の集計結果
重賞勝馬輩出率 | 勝率 | 勝ち上がり率 | |
オルフェーヴル | 1.8% | 8.7% | 35.8% |
キズナ | 2.4% | 9.9% | 44.9% |
ジャスタウェイ | 1.5% | 7.0% | 33.9% |
エピファネイア | 0.0% | 7.2% | 20.6% |
モーリス | 1.9% | 8.3% | 41.2% |
リオンディーズ | 0.0% | 5.8% | 32.1% |
(単純平均) | 1.3% | 7.8% | 34.8% |
(参考)その他全体(非インブリード)の集計結果
重賞勝馬輩出率 | 勝率 | 勝ち上がり率 | |
オルフェーヴル | 2.2% | 8.6% | 34.8% |
キズナ | 2.4% | 10.1% | 47.8% |
ジャスタウェイ | 2.0% | 7.5% | 36.7% |
エピファネイア | 0.0% | 7.8% | 27.7% |
モーリス | 2.1% | 10.7% | 41.7% |
リオンディーズ | 0.0% | 6.6% | 30.8% |
(単純平均) | 1.5% | 8.6% | 36.6% |
注)勝ち上がり率のデータのみ、2歳世代を除いている