1・はじめに
本稿は今季の北米繋養種牡馬の父系別の産駒活躍状況をまとめて、現在の勢力図、勢いを俯瞰する目的でまとめている。尚、今回は北米繋養種牡馬の内、北半球で産まれた産駒が世界で獲得した賞金上位100頭の種牡馬をピックアップし、これらの種牡馬がどれだけのG1馬、重賞勝ち馬を輩出しているのか、「頭数」に着目してまとめたデータになる。今回は前回取り上げたMr. Prospectorを始祖とする系統に続き、Northern Dancer、Bold Ruler、Hail to Reasonなどを始祖とする系統を取り上げる。
※データは現地時間11/12の2:31時点のTDN(サラブレッド・デイリー・ニュース)にてアップされたものを参照している。
※カウント対象は世界になり、北米、欧州、日本、ドバイ、南半球等となる。アメリカ繋養のAmerican Pharoah産駒でアメリカで産まれたカフェファラオはカウント対象となるが、アメリカ繋養のStreet Boss産駒で南半球のオーストラリアで産まれたAnamoe(今年豪G1・2勝)はカウント対象外となる。
2・Northern Dancerを始祖とする系統
以下は「Northern Dancerを始祖とする系統」を細分化して示したものになる。併記した全体比はG1馬は56を、重賞勝ち馬は217を分母にして算定したものとなる。
始祖 | G1馬数 | 全体比 | 重賞勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Storm Bird→Storm Cat | 7 | 12.5% | 29 | 13.36% |
Sadler's Wells | 3 | 5.36% | 13 | 5.99% |
Danzig | 3 | 5.36% | 13 | 5.99% |
Vice Regent | 3 | 5.36% | 8 | 3.69% |
Dixieland Band | 0 | 0% | 2 | 0.92% |
2-1・Storm Bird→Storm Cat系
・Storm Bird→Storm Catの概要は以下の通り。Storm CatからはHarlan、Giant’s Causeway、ヘネシー、Bernsteinの4つに分かれ、サイアーラインが伸びているが収得賞金順位で20位以内にいるのはチャンピオンサイアー・Into Mischiefのみ。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Storm Bird→Storm Cat
└Harlan
└Harlan’s Holiday
└Into Mischief(4,12):Life Is Good(BCダートマイル)、Gamine(バレリーナH、ダービーシティディスタフS)、Mandaloun(ハスケルS)、Mischevious Alex(カーターH)
└Goldencents(1,3):Going To Vegas(ロデオドライブS)
└Giant’s Causeway(0,1)
└Fed Biz(1,2):Zenden(ドバイゴールデンシャヒーン)
└Protonico(1,1):Medina Spirit(ケンタッキーダービー、オーサムアゲインS)
└Not This Time(0,2)
└First Samurai(0,1)
└ヘネシー
└ヨハネスブルグ
└Scat Daddy(0,5)
└Bernstein
└Karakontie(0,2)
2-2・Sadler’s Wells系
・Sadler’s Wellsの直仔・El Prado(2002年北米リーディングサイアー)がMedaglia d’OroとKitten’s Joyの2頭の優良後継種牡馬を残し発展中の父系。尚、Medaglia d’OroについてはTDNではG1勝ち馬を今年1頭輩出、となっているが豪州産で香港でG1を勝ったGolden SixtyをTDNは北半球産まれにカウントしている模様で、掲載されている通りに本稿ではカウント対象としている。Golden Sixtyは先日の香港マイルを制し今年G1を4勝。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Sadler’s Wells
└El Prado
└Medaglia d’Oro(1,10):Golden Sixty(チャンピオンズマイル、香港ゴールドC、香港スチュワーズC)
└Violence(1,1):Dr. Schivel(ビングクロスビーS)
└Kitten’s Joy(1,1):Tripoli(パシフィッククラシックS)
2-3・Danzig系
・Danzigからハードスパン、War Frontの2系統が主に伸びている父系。「Met Mile(メトロポリタンH」を勝ったハードスパン産駒・Silver Stateは種付料2万米ドルで来年から種牡馬入り。3歳時に6f、7f、9fのG1を勝ったOmaha BeachにはWar Frontの後継種牡馬としての期待がかかるが、今年産まれの当歳が1stクロップ。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Danzig
└ハードスパン(2,4):Silver State(メトロポリタンH)、Aloha West(BCスプリント)
└War Front(1,5):Homesman(オーストラリアンC)
└ザファクター(0,3)
└Boundary
└Big Brown(0,1)
2-4・Vice Regent系
・Awesome Again直仔の3頭が全て今年G1馬を輩出。おそらく今年の年度代表馬に選出されるであろうKnicks Goは来年スタッドインの予定で種付料は3万米ドル。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Vice Regent
└Deputy Minister
└Awesome Again
└Ghostzapper(1,6):Mystic Guide(ドバイワールドC)
└Paynter(1,1):Knicks Go(BCクラシック、ホイットニーS、ペガサスワールドカップ招待S)
└Oxbow(1,1):Hot Rod Charlie(ペンシルヴェニアダービー)
2-5・Dixieland Band系
・Union Ragsはこれまでに4頭のG1馬を輩出しているが、1stクロップから3頭、2ndクロップから1頭輩出。以後、3rdクロップから6thクロップまではG1馬は出ていない。今年は2頭の重賞勝ち馬を輩出。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Dixieland Band
└Dixie Union
└Union Rags(0,2)
3・Bold Ruler~A. P. Indyを始祖とする系統
以下は「Bold Ruler~A. P. Indyを始祖とする系統」を細分化して示したものになる。併記した全体比はG1馬は56を、重賞勝ち馬は217を分母にして算定したものとなる。尚、A. P. IndyはBold Rulerの曾孫で1977年の米3冠を無敗で制したSeattle Slewの直仔。Bold Ruler→Boldnesian→Bold Reasoning→Seattle Slew→A. P. Indyと続くサイアーラインになる。
始祖 | G1馬数 | 全体比 | 重賞勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Pulpit | 2 | 3.57% | 20 | 9.22% |
Flatter | 1 | 1.79% | 7 | 3.23% |
Bernardini | 1 | 1.79% | 5 | 2.30% |
Mineshaft | 1 | 1.79% | 2 | 0.92% |
A. P. Indy直仔 | 2 | 3.57% | 5 | 2.30% |
3-1・Pulpit系
・Pulpitの直仔・Tapitが複数の後継種牡馬を擁しており、Bold Rulerから脈々と続くこの父系の屋台骨を支えている現況。昨年来、Tapitの代表産駒といっていい大活躍を見せたEssential Qualityは来年から種牡馬入りとなり、種付料は7万5000米ドル。タピザーは今年から優駿SSにて繋養される予定だったが、輸出寸前に重度の骨折を負い安楽死となり、日本での繋養は幻となっている。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
A. P. Indy
└Pulpit
└Sky Mesa(0,1)
└Tapit(1,9):Essential Quality(ベルモントS、トラヴァーズS)
└Constitution(0,5)
└Tonalist(1,1):Country Grammer(ハリウッドゴールドカップ)
└Frosted(0,2)
└タピザー(0,2)
3-2・Flatter系
・Flatterはこれまでに5頭のG1馬を輩出。その中の1頭、West Coast(2017年エクリプス賞最優秀3歳牡馬、トラヴァーズS、ペンシルヴェニアダービー)が来年産駒デビューを控えている。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
A. P. Indy
└Flatter(1,4):Search Results(エイコーンS)
└Flat Out(0,2)
└Upstart(0,1)
3-3・Bernardini系
・Bernardiniは今年8月に蹄葉炎の合併症にて18歳で死亡。Stay Thirsty、Art Collectorが今後、後継種牡馬の重責を担うことになる。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
A. P. Indy
└Bernardini(1,4):Art Collector(ウッドワードS)
└Stay Thirsty(0,1)
3-4・Mineshaft系
・Dialed Inは昨年のGet Her Number(アメリカンファラオS)に続き、今年はSuper Stock(アーカンソーダービー)を輩出。1stクロップのGunnevera(重賞3勝、G1での2着3回、3着3回)は今年から種牡馬となっているが繋養地はフロリダ州で来年の種付料は6000米ドル。限られた繁殖の質から好成績を残せるか。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
A. P. Indy
└Mineshaft
└Dialed In(1,2):Super Stock(アーカンソーダービー)
3-5・A. P. Indy直仔
・Honor Codeはこれまでに輩出した3頭の重賞勝ち馬が全てG1馬。昨年、1stクロップのHonor A. P.がサンタアニタダービーを制し、今年も2頭がG1勝ち。
・Malibu Moonは今年5月に心臓発作が原因で死亡。自身の代表産駒・Orb(ケンタッキーダービー)は今年4月にウルグアイの生産者シンジゲートに購買されている。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
A. P. Indy
└Honor Code(2,2):Max Player(ジョッキークラブゴールドC)、Maracuja(CCAオークス)
└Malibu Moon(0,1)
└Congrats(0,1)
└Jump Start(0,1)
4・Hail to Reasonを始祖とする系統
以下は「Hail to Reasonを始祖とする系統」を細分化して示したものになる。併記した全体比はG1馬は56を、重賞勝ち馬は217を分母にして算定したものとなる。
始祖 | G1馬数 | 全体比 | 重賞勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Halo | 3 | 5.36% | 7 | 3.23% |
Roberto | 1 | 1.79% | 6 | 2.76% |
4-1・Halo
・Halo→Southern Halo→More Than Readyと続くサイアーライン。More Than Readyの孫になるSwiss Skydiverは先日のファシィグティプトン・ノベンバーセールにてノーザンファームの吉田勝己氏が470万米ドルにて購入。Authenticとの一騎打ちを制した昨年のプリークネスSは印象深いもので、配合相手や日本での産駒デビューはかなりの注目を集めそうである。
・この父系で今後産駒デビューを控える注目種牡馬はハーツクライ産駒・Yoshida。現役時代は芝とダートでG1を制した実績を誇り、サンデーサイレンスの血がアメリカにどう根付いていくのか、興味は尽きないが種付料は初年度(2020年)が2万米ドル→2021年が1万5000米ドル→2022年が1万2500米ドルと漸減中。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Halo
└Southern Halo
└More Than Ready(1,5):Hit the Road(フランク・E.キルローマイルS)
└Daredevil(2,2):Swiss Skydiver(ビホルダーマイルS)、Shedaresthedevil(ラトロワンヌS、クレメント・L.ハーシュS)
4-2・Roberto
・Point of Entry産駒のPoint Me Byが8月のブルースD.ステークス(旧セクレタリアトS)に勝利したのがこの父系唯一のG1勝ち。
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Roberto
└Dynaformer
└Point of Entry(1,3):Point Me By(ブルースD.ステークス)
└Temple City(0,2)
└Kris S.
└Arch
└Blame(0,1)
5・Grey Sovereignを始祖とする系統
Uncle Moがこの父系を支える大黒柱で、今年重賞勝ち馬は出せなかったがNyquist、Laoban、Outworkの直仔3頭が収得賞金100位以内にランクイン。YauponはBCスプリントの最有力馬だったが骨折により9月に引退。来年の種付料は3万米ドルと発表されており、産駒の走りに期待がかかる。
始祖 | G1馬数 | 全体比 | 重賞勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Grey Sovereign | 2 | 3.57% | 6 | 2.76% |
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Grey Sovereign
└フォルティノ
└Caro
└Cozzene
└Mizzen Mast(0,1)
└Siberian Express
└In Excess
└Indian Charlie
└Uncle Mo(2,5):Golden Pal(BCターフスプリント)、Yaupon(フォアゴーS)
6・Native Dancerを始祖とする系統
G1馬は出ておらず、重賞勝ち馬が4頭出ているが、収得賞金ランキングで100位以内に入っている種牡馬は3頭のみ。Mr. Prospectorを経由しないNative Dancer、Raise a Native系は苦しい情勢。
始祖 | G1馬数 | 全体比 | 重賞勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Native Dancer | 0 | 0% | 4 | 1.84% |
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Native Dancer
└Raise a Native
└Alydar
└Benchmark
└Grazen(0,1)
└Majestic Prince
└Majestic Light
└Wavering Monarch
└Maria’s Mon
└Super Saver
└Competitive Edge(0,2)
└Runhappy(0,1)
7・Man o’Warを始祖とする系統
Tiznowは2008年の北米サイアーランキングで3位になるなど、Man o’War系の担い手として奮闘してきたが、昨年既に種牡馬を引退。北米においては父系の存続が厳しい状況。ちなみに収得賞金上位100頭にもう1頭、Bayern(Icecapadeの曾孫、Wild Againの孫)が入っているが、今年重賞勝ち馬は出せていない。
始祖 | G1馬数 | 全体比 | 重賞勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Man o'War~Relaunch | 0 | 0% | 2 | 0.92% |
※()内の数字は左の赤字が輩出したG1馬の数、右が輩出した重賞勝ち馬の数になり、重賞勝ち馬が出ていない種牡馬は記入していない。各種牡馬の横に今年G1を制した馬とレース名を併記している。
Man o’War
└War Relic
└Intent
└Intentionally
└In Reality
└Relaunch
└Cee’s Tizzy
└Tiznow(0,2)
8・まとめ
今回は2回に渡り米国繋養種牡馬の現況について取り上げてきたが、前々回取り上げた欧州繋養種牡馬の現況と比べるとNorthern DancerとMr. Prospector以外の系統がしぶとく根を張っており、多様性がある程度は確保されていることが分かる。
英・愛リーディングサイアーは1989年にBlushing Groomが就いたのを最後に以後、全てNorthern Dancer直系の種牡馬が独占しているが、北米リーディングサイアーは2003年と2006年にA. P. Indy、2014~2016年にTapitが就いたBold Ruler系が主流2系統に対する第3の系統としてしっかりと存在感を見せており、今後どこまで主流2系統に迫れるか注目になる。
次回は米国繋養のBMSの現況について触れる。