今回は社台グループの2022年1月の繁殖牝馬名簿をもとに、数年先の種牡馬動向を見通していく。本稿ではノーザンファーム、社台ファームの種付頭数を中心に取り上げていくが、この名簿は昨年の種付実績が載っているもので、産駒は今年産まれ、2年後にデビュー、ということになる。現時点での各種牡馬への評価や期待が透けてみえるもので、興味深い内容となっているのでご参照頂きたい。
※種付頭数は預託馬への種付けも含まれたものになる。
エピファネイア
父・シンボリクリスエス、母・シーザリオ、母父・スペシャルウィーク
2010年産:12歳
2021年トータル種付頭数:218
2021年ノーザンファーム種付頭数:46
2021年社台ファーム種付頭数:20
・2020年の33頭から13頭増で、ノーザンファームでの種付頭数はトップ。前年の2020年はデアリングタクトが牝馬3冠を達成した年で、これを受けて配合相手も豪華なものとなっており、アーモンドアイを筆頭にノームコア、マリアライト、アドマイヤリード、ミッキークイーンなど多くのG1馬や、エフフォーリアを産んだケイティーズハートなどが揃っており、既報の通り、アーモンドアイは既に牡馬を出産している。
・サンデーサイレンス直仔を父に持つ繁殖との配合で、デアリングタクト、エフフォーリア、サークルオブライフ同様、サンデーサイレンス4×3のクロスが発生するが、該当する馬は24頭(52.17%)。他にアーモンドアイのように産駒からみて祖母の父がサンデーサイレンス、というパターンも含めると、割合はもっと多くなり、当面はこのサンデー4×3の旋風が続いていきそうである。
・社台ファームではブリックスアンドモルタル、イスラボニータ、ドゥラメンテに次ぐ4番目の種付頭数。20頭中、8頭は父が横文字の繁殖牝馬との交配。レイクヴィラファームは1頭、追分ファームは5頭(ブリックスアンドモルタル、ナダル、ルヴァンスレーヴと並びトップ)、白老ファームは2頭の種付けとなっている。
サートゥルナーリア
父・ロードカナロア、母・シーザリオ、母父・スペシャルウィーク
2016年産:6歳
2021年トータル種付頭数:205
2021年ノーザンファーム種付頭数:43
2021年社台ファーム種付頭数:15
・昨年スタッドインしたばかりの種牡馬だが、トータルの種付頭数は205頭と大きな期待を集めている。種付料は昨年が600万円、今年が700万円。エピファネイア同様、産駒の血統表の「4」の位置にサンデーサイレンスが来る馬だが、ルージュバック、ハープスター、ショウナンパンドラ、メジャーエンブレムなどが配合されており、これらの産駒は漏れなくサンデー4×3のクロスを持つことになる。
・以下の記事にグランレグリアの交配相手について語った吉田勝己氏のコメントが出ており、「エピファネイアが最有力かな。ロードカナロアだと距離が短いしね。サートゥルナーリアもいるし、いろいろな馬を考えていきたいですね」とのこと。後述するがロードカナロアの種付頭数はトータルでもノーザンファーム内でも漸減傾向にあり、サンデー系の有力繁殖牝馬の交配相手としては、エピファネイア、サートゥルナーリアがファーストチョイスになっている考えが伺える。
https://news.netkeiba.com/?pid=news_view&no=197506
キズナ
父・ディープインパクト、母・キャットクイル、母父・Storm Cat
2010年産:12歳
2021年トータル種付頭数:195
2021年ノーザンファーム種付頭数:39
2021年社台ファーム種付頭数:15
・ノーザンファームでの種付頭数は14頭→11頭→36頭→39頭と推移中。1stクロップの活躍が種付頭数の増加に直結しており、39頭中、母父が横文字の馬が26頭(66.6%)。以前、本コラムで触れたが前年の3倍以上種付けされた昨年産まれの世代(現1歳)は、優秀な繁殖牝馬が今まで以上に集ったという意味でキズナの真価が問われる世代。今年産まれの世代と合わせて、来年以降デビューのキズナ産駒は要注目となり、アカイイトに続くG1馬の出現が早期に望まれる。
ドゥラメンテ
父・キングカメハメハ、母・アドマイヤグルーヴ、母父・サンデーサイレンス
2012年産、2021年没
2021年トータル種付頭数:131
2021年ノーザンファーム種付頭数:38
2021年社台ファーム種付頭数:21
・39頭→35頭→38頭と大きな増減もなく堅調に推移してきたが、昨年8月に9歳の若さで夭折したため、今年産まれがラストクロップとなる。2021年の交配状況は繁殖牝馬の父も母も横文字の馬が24頭(63.2%)。気が早い話になるが、この中から牝馬が産まれた場合、血統表の「3」の位置にサンデーサイレンスが入るため、この牝馬にコントレイルやキズナをつけた場合、産駒はサンデー3×4のクロスを持つことになる。BMSとしてドゥラメンテが躍進する未来がありそうで、ドゥラメンテ牝駒は希少性も含め注目の的となる。
・現3歳の2ndクロップからはスターズオンアース、ベルクレスタの重賞2着馬2頭や、サウンドビバーチェ、ティーガーデン、ドゥラドーレス、レヴァンジルが1勝クラスの特別勝ちと、唯一の重賞勝ち馬・タイトルホルダーに続きそうな馬が続々と出てきている状況。参考までに、ポストディープインパクトの時代を可視化する目的で、単純に現3歳世代でディープインパクト産駒が勝ったレースの2着馬や、ディープインパクト産駒ワンツーの場合の3着馬の父を集計すると、ドゥラメンテがトップで7頭になる。
レイデオロ
父・キングカメハメハ、母・ラドラーダ、母父・シンボリクリスエス
2014年産:8歳
2021年トータル種付頭数:170
2021年ノーザンファーム種付頭数:38
2021年社台ファーム種付頭数:7
・2020年種付が1stクロップで、トータルでは196頭、ノーザンファームでは44頭が種付されていたが、2021年は6頭減って38頭の種付け。ブエナビスタ、ラッキーライラックに2021年は種付けされており、既にブエナビスタは牡馬を、ラッキーライラックは牝馬を出産している。
・前述した通り、ノーザンファームではサンデー系の有力繁殖牝馬の交配相手として、サンデーサイレンスのクロスが作れるエピファネイア、サートゥルナーリアがファーストチョイスとなっていると思われる中、レイデオロは曽祖母がウインドインハーヘアなため、ディープインパクトを父に持つ繁殖牝馬との交配でウインドインハーヘアの4×3の牝馬クロスが発生する妙味がある。ノーザンファームでは2020年は供用初年度ということもあったか、シンハライト、ショウナンパンドラ、ラキシス、マリアライト、ヴィルシーナなど9頭のディープインパクト牝駒と交配されているが、2021年は6頭に留まっている。
モーリス
父・スクリーンヒーロー、母・メジロフランシス、母父・カーネギー
2011年産:11歳
2021年トータル種付頭数:146
2021年ノーザンファーム種付頭数:36
2021年社台ファーム種付頭数:10
・トータルの種付頭数が初年度以降、265→245→212→165→146と右肩下がりになっているが、昨年のピクシーナイトのスプリンターズS勝ちや、豪州でのHitotsuのヴィクトリアダービー勝ちで今年は下げ止まるか。ノーザンファームでは2020年は同ファーム内最多の52頭に種付けされていたが、2021年は16頭減の36頭止まりとなっている。昨年産まれの世代は数が多くなっているため特に要注目となるが、この中に大物が含まれているかどうか。4連勝中のジャックドール、今週の京都記念に出走予定のジェラルディーナなど、クラシックには間に合わなかった馬からスター候補生が出てきており、これらの馬が祖父や父譲りの晩成寄りの資質を全面的に開花させることが出来れば、やや評価の面で差がついたエピファネイアとの差を詰めていくことも可能だろうが果たして。
ロードカナロア
父・キングカメハメハ、母・レディブラッサム、母父・Storm Cat
2008年産:14歳
2021年トータル種付頭数:157
2021年ノーザンファーム種付頭数:35
2021年社台ファーム種付頭数:19
・2018年には1stクロップの活躍を受けてトータルで307頭に種付けされていたが、以後、250→181→157頭とトータルでの種付頭数は漸減中。ノーザンファームでも近3年は55→45→35頭と漸減中。2021年はリスグラシュー、ヴィブロスに種付けされており、これらの産駒には大きな注目が集まるが、1stクロップ(アーモンドアイ、ステルヴィオ、ダノンスマッシュ)、2ndクロップ(サートゥルナーリア)の勢いが、3rdクロップ以降はやや薄れているのは確か。種付頭数が最多となった時の世代(現3歳)、種付料が一気に800万円から1500万円に急増した時の世代(現2歳)、種付料が自己最高の2000万円となったことで種付頭数は減ったが繁殖の質がかなり高くなっていると思われる世代(現1歳)から、1stクロップ、2ndクロップのような凄まじい勢いを取り戻せるか。
ブリックスアンドモルタル
父・Giant’s Causeway、母・Beyond the Waves、母父・Ocean Crest
2014年産:8歳
2021年トータル種付頭数:180
2021年ノーザンファーム種付頭数:17
2021年社台ファーム種付頭数:51
・社台ファームでの2021年の最多種付頭数はこの馬。社台ファームではソウルスターリング、ジュエラー、ラクレソニエール、マルセリーナらに付けられており、社台ファームでの期待の大きさが伺える。ブリックスアンドモルタルはStorm Birdの3×3というかなり濃いインブリードを持つ馬で、1stクロップは昨年産まれの現1歳(血統登録頭数107)。現役時に管理したチャド・ブラウン師は「すばらしく品があり、信じられないほどの度胸と加速力がありました」と語り、社台SSの徳武氏は「軽快な身のこなし、踏み込みの良い歩様、薄皮に包まれたような質感、まさにサンデーサイレンスをほうふつとさせるような馬」とコメント。産駒デビューが注目となるのは間違いないが、ノーザンファームの種付頭数は17頭とそれほど多くなく、対照的な数字となっている。
その他の主な種牡馬の種付頭数
ノーザンファーム
ナダル:28
アドマイヤマーズ:25
リアルスティール:25
サトノダイヤモンド:23
ドレフォン:20
ニューイヤーズデイ:19
キタサンブラック:18
ミッキーアイル:18
ルヴァンスレーヴ:18
ルーラーシップ:18
フィエールマン:17
スワーヴリチャード:15
ヘニーヒューズ:12
オルフェーヴル:11
ハービンジャー:11
サトノアラジン:10
リオンディーズ:10
社台ファーム
イスラボニータ:35
マインドユアビスケッツ:16
ハービンジャー:13
オルフェーヴル:11
ドレフォン:11
ルーラーシップ:11
ダイワメジャー:10