種付シーズンの盛期となるこの時期、海外のメディア等でValue Sire(ヴァリューサイアー)という用語に出くわすことがある。正しい訳語は不明だが意味としては、「実力に比して種付料の安い」種牡馬、端的に言えば「お得な」種牡馬、といったところだろうか。今回はそれをどうやって発掘するのがいいのか、をテーマに考察を試みる。データは2022/3/13開催終了時点。

注)種付料が安いと言う際の尺度は、①産駒成績、②産駒の売却価格、の二通りで用いられるようだが、本稿では①の意味で取り扱う

Value Sireの条件を考える

どうやって発掘するかに決まりはなく、切り口は様々にありそうだが、本稿ではスタッドイン時の環境の違いを勘案すること、を先ず考える。その理由は、競走生活を終えてスタッドインした種牡馬のスタートラインは横一線に引かれているわけではなく、質・量の両面でどのくらい繁殖牝馬が集まるかに成績が大きく左右されるが、そうした条件の違いが種牡馬を評価する上で、いつも十分に検討されている、とは思われないためである。

加えて、実際にValue Sireが求められるのはどういう状況なのか、ということがある。これは想像容易なことで、優れた血統・競走成績を有するエリート繁殖牝馬の交配相手としてではなく、もっとありふれた場面のはずである…

したがってValue Sireを発掘するには、(繫殖牝馬の質に頼らず)標準的・平均的な牝馬との交配から良質の産駒を輩出しているかどうか、というポイントから掘り起こしていくのがいいのでは、ということに行き着く。ここでは以降、この標準的・平均的な牝馬、というのを「基準牝馬」と言い換えて進めていく。

「基準牝馬」をどう定義するかが次の問題だが、ある程度、質が均一となりそうな区切り方(質の高い群、低い群を除外し個体差を小さくする)をしたい、ということもあるし、あまり細かく条件設定して母集団数を極小にしたくない、ということもある。

前置きが長くなったが、以上のようなことを検討した挙句、今回採用した「基準牝馬」の定義とその評価軸は下記の通り。基準牝馬に含まれないのは、競走成績の優れた牝馬、輸入繁殖牝馬、競走成績が上がらなかった牝馬(中央未勝利、未出走)で、これらを除外した産駒実績を集計することで、Value Sireとしての実力がみえてくるのではないか、ということだが、狙い通りとなっているかどうか… 以下、主観を入れずにデータと種付料でピックアップしたValue Sire10頭をご覧いただきたい。なお、表には現役種牡馬のみを掲載している。

基準牝馬 =JRA平地で1勝あるいは2勝した牝馬(ただし重賞1・2着馬は除く)
基準牝馬EI = 基準牝馬の産駒のみ、によるアーニングスインデックス(JRAの本賞金をベースに算出)

注)毎年JRAに登録されるのが5000頭ほど、この内、「基準牝馬」の産駒数は900頭ほどで、全体の20%弱となる。現4歳世代を例にとると、基準牝馬産駒の1頭あたり本賞金は現時点で711万円と、基準牝馬以外の809万円よりやや小さくなる。

現4歳世代が初年度となる種牡馬

現4歳世代が初年度となる種牡馬の、現4歳世代~現3歳世代の2世代のデータは下表の通り。ややサンプル数が限られるが、種付料との比較ではアンバランスなデータとなっているのは興味深い(この指標ではモーリス、リオンディーズらは目立たない)。注目したい種牡馬が多くホッコータルマエも十分魅力的に映るが、ここでは4頭をとりあげた。

種牡馬基準牝馬産駒・出走頭数基準牝馬EI2022種付料*(万円)
ミッキーアイル211.90250
エイシンヒカリ111.73120
アジアエクスプレス231.69150
ディスクリートキャット331.68150
ホッコータルマエ231.53250
モーリス451.19700
リオンディーズ341.01400
マクフィ240.76250
クリエイター2180.6050
ラブリーデイ260.4880
頭数が限られるため表に含めなかった種牡馬にダノンレジェンド(9頭、1.19)などがいる
*種付料は代表的な設定のもの

ミッキーアイル 11歳 父ディープインパクト
受胎確認後250万円(フリーリターン特約付)
NHKマイルC、マイルCSとマイルG1を2勝、社台SSで種牡馬入り(初年度150万円)。4歳世代は55頭がJRAでデビューし20頭が勝ち上がっている(勝ち上がり率36%*)。代表産駒メイケイエール(牝4、母は未勝利)はチューリップ賞など重賞4勝、ナムラクレア(牝3、母は愛1勝)は小倉2歳S勝ち、デュアリスト(牡4、母は4勝)は兵庫ジュニアGP勝ち。力強いスピードを伝え、芝・ダの勝ち星が現状半々の兼用種牡馬。実績的に早熟のイメージが強いが、シャーレイポピー・ララクリスティーヌなど成長力を示す産駒も散見される。芝1500m以下のカテゴリーでは3、4歳世代とも賞金ランキング3位。距離をこなす産駒は期待薄とみられ、ロードカナロア(1500万)、モーリス(700万)との比較はやや無理があるだろうが、スプリントサイヤーの有望株として、ダイワメジャー(最高値600万)、サクラバクシンオー(同500万円)が築いた地位にどこまで迫れるか。

*この世代データは基準牝馬産駒ではなく、全体のもの。以下、同様

エイシンヒカリ 11歳 父ディープインパクト
受胎確認後120万円(フリーリターン特約付)
香港C、仏イスパーン賞と海外の芝中距離G1を2勝。4歳世代は31頭がJRAでデビューし11頭が勝ち上がっている(勝ち上がり率36%)。代表産駒エイシンヒテン(牝4、母は2勝)は2勝でローズS2着、秋華賞4着。他にカジュフェイス(牡3、母は未出走)がもみじS・OP勝ちなど。交配相手にエイシン・エーシンとオーナー馬が目立ち、繁殖の質はそれなりに確保されての結果、という感はあり、成長力を欠く産駒が目に付く点も気になるが、芝路線では一定の戦果は上げている。スタッドイン時の250万円から半減のこの種付料なら再考の余地があるのではないだろうか。

アジアエクスプレス 11歳 父ヘニーヒューズ
受胎確認後150万円(フリーリターン特約付)
米国産。外国産馬として日本で走り、2歳G1・朝日杯FSに勝利、ダートでも重賞勝ちがある。父ヘニーヒューズと同じ優駿SSにスタッドイン。4歳世代は65頭がJRAでデビューし20頭が勝ち上がっている(31%)。代表産駒ボイラーハウス(牡4、母は1勝)は4勝、ソロユニット(牝4、母は地方)はエーデルワイス賞・JPNⅢに勝利。産駒の芝実績はほぼ皆無、ダート1200~1400のスペシャリスト的存在で、悪く言えば適正的に大レースと縁が薄そう、とも言えるか。スタッドイン時の60万円から評価は上がった後だが、ポスト・サウスヴィグラス(現4歳世代が最終)の浮揚効果もまだ見込めるはずで、この種付料には妙味が残っているように思われる。

ディスクリートキャット 19歳 父Forestry
産駒誕生後150万円
米国産。ダート8fの米G1・シガーマイルHの勝馬。米国でスタッドイン、日本で走ったエアハリファの活躍を経て、日本のダーレーで供用されたのは14歳になってから。4歳世代は63頭がJRAでデビューし23頭が勝ち上がり(37%)。代表産駒コンバスチョン(牡3、母は3勝)は3勝で全日本2歳優駿2着、ワールドバローズ(牡4、母は未勝利)4勝など。Storm Cat系らしい歯切れのよい快速が特徴で、ダート1400~1600が主戦場。すでに高齢なのは不安材料だが、同系統のヘニーヒューズ(500万)・ドレフォン(700万)との比較では割安感が目立つ。

現5歳世代が初年度となる種牡馬

続いて現5歳世代が初年度となる種牡馬の、現5歳世代~現3歳世代の3世代のデータは下表の通り。キズナの数字は光るが、種付料低めの4頭を選出。

種牡馬基準牝馬産駒・出走頭数基準牝馬EI2022種付料*(万円)
リアルインパクト342.30100
キズナ682.251200
ゴールドシップ321.91200
カレンブラックヒル321.3870
トゥザワールド221.3630
エピファネイア851.321800
エスケンデレヤ181.2050
マジェスティックウォリアー321.01180
ワールドエース290.7950
スピルバーグ220.36
頭数が限られるため表に含めなかった種牡馬にウインバリアシオン(6頭、1.57)、ヴァンセンヌ(8頭、1.20)など
*種付料は代表的な設定のもの

リアルインパクト 14歳 父ディープインパクト
受胎確認後100万円(フリーリターン特約付)
3歳時に安田記念、7歳で豪ジョージライダーSとG1を2勝。社台SSで種牡馬入りし、2021年に優駿SSに移動。80万円でスタートし、2020年に200万円まで上昇した。5歳世代の勝ち上がり率29%、4歳世代30%。代表産駒ラウダシオン(牡5、母は1勝)はNHKマイルCの勝馬、他、エイシンチラー(牝4、母は2勝)4勝など。上表のデータが突出しているのはラウダシオン1頭に負うところ大だが、大物実績をアピール材料と捉えることもできるだろう。芝・ダ兼用で1800mまでは守備範囲。安定感はなく一発屋のイメージを払拭できていないが、この種付料との相談でなら許容できるか。

ゴールドシップ 13歳 父ステイゴールド
受胎確認後200万円(フリーリターン特約付)
G1を計6勝(皐月賞、菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念×2、有馬記念)。ビッグレッドファームで種牡馬入り(初年度は300万)。5歳世代の勝ち上がり率39%、4歳世代31%。代表産駒ユーバーレーベン(牝4、母は1勝)はオークス、ウインキートス(牝5、母は重賞勝ち)は目黒記念に勝利。産駒の平均勝利距離が2000mとステイヤー色がかなり濃い一方、ルーラーシップ(300万円)のようにダートで潰しが効かない不器用さがあるが、その濃厚なキャラクターを受け入れられるなら、200万円なら実力的には申し分なさそう。マカオンドール、ヴェローチェオロら、今後躍進のありそうな産駒も続いており、一発屋的なイメージは当たらないと思われる。

カレンブラックヒル 13歳 父ダイワメジャー
受胎確認後70万円(フリーリターン特約付)
NHKマイルCを逃げ切った快速馬。優駿SSで種牡馬入り(70万円)。5歳世代の勝ち上がり率50%、4歳世代27%。代表産駒アサヒ(牡3、母は未勝利)が東スポ杯2歳S2着、アザワク(牝5、母は未勝利)がエーデルワイス賞2着。他にもラヴケリー、セイウンヴィーナスの重賞入着があるが、タイトルには手が届いていない。ダート1200m前後がベストの条件だが、芝をこなす産駒もいる。実績的に小粒感が否めず種付料が抑えこまれている格好で、上述のアジアエクスプレス(150万)の半額なら、むしろこちらを上位にとるべきか。

トゥザワールド 11歳 父キングカメハメハ
受胎確認後30万円(フリーリターン特約付)
弥生賞の勝馬で、皐月賞・有馬記念2着がある。優駿SSで種牡馬入り(30万円)。5歳世代の勝ち上がり率23%、4歳世代31%。代表産駒にゴールドチャリス(牝4、母は輸入・未出走)3勝、ペルセウスシチー(牡5、母は1勝)3勝など。芝ダ兼用で、距離は1200m前後か、2000m前後で活躍するタイプに二分される。条件戦の戦績は悪くないものの大舞台とは縁がなく、低位の種付料以外の強調材料は乏しいが、タフに使われつつ力をつけるのが成功パターンで、入着を繰り返し地道に賞金を積み上げるタイプを好む向きにフィットする可能性があるか。

上記以前の種牡馬

最後に上記以前にデビューした種牡馬の、現6歳世代~現3歳世代の4世代のデータをまとめたのが下表となる。ここまでさかのぼると、安い種牡馬にはそれなりの理由がある、という感じが色濃くなってくる。高齢を迎えている2頭をピックアップした。

種牡馬基準牝馬産駒・出走頭数基準牝馬EI2022種付料*(万円)
バゴ197.37100
アポロキングダム102.6620
スクリーンヒーロー461.96p
オルフェーヴル611.60350
ヘニーヒューズ821.57500
キンシャサノキセキ521.50p
ルーラーシップ1061.40300
ダイワメジャー371.27p
ハービンジャー791.17400
ロージズインメイ301.1650
ジョーカプチーノ301.1530
ブラックタイド561.03200
ノヴェリスト631.0050
ベーカバド211.0020
エスポワールシチー240.96120
ロードカナロア870.941500
ダンカーク470.9170
エイシンフラッシュ810.9080
シニスターミニスター470.80350
マツリダゴッホ330.7850
ストロングリターン440.7780
ジャスタウェイ400.76200
トランセンド210.7650
スマートファルコン330.7350
パイロ410.70300
パドトロワ140.6830
ディープブリランテ550.5950
フリオーソ130.58100
メイショウボーラー470.5130
リーチザクラウン210.4250
ナカヤマフェスタ140.3720
アドマイヤムーン430.2850
アンライバルド110.2220
ケープブランコ260.2110
トーセンラー140.1350
*種付料は代表的な設定のもの pはプライベート

バゴ 21歳 父Nashwan
受胎確認後100万円(流死産時又は産駒死亡時に返還)
凱旋門賞など仏G1を5勝した一流馬。日本軽種馬協会で種牡馬入り(FR付180万円)。5歳世代の勝ち上がり率33%、4歳世代15%。供用10年目にして大物クロノジェネシス(母は1勝馬で、上表のEIに算入されている)をようやく送り出した。その他にビッグウィーク(母は2勝)が菊花賞、ステラヴェローチェ(母は未勝利)が神戸新聞杯に勝つなど重賞勝ち馬は計9頭出ているが、クロノジェネシス出現前の評価は芳しいものではなく、種付料は一時50万円(後払い受胎後)まで落ち込んでいた。本領は芝だろうがダートグレード重賞を勝った産駒も複数おり、距離適性も幅広く特性は茫洋としている。21歳の高齢で逡巡してしまう向きもあるだろうが、この価格帯の種牡馬としては、秘めるパンチ力は何階級か上の存在と言えそうで、そこを重視するなら、というところか。

アポロキングダム 19歳 父Lemon Drop Kid
受胎確認後20万円(フリーリターン特約付)
米国産。Keeneland Yearlingセールで11万ドルで落札された。近親にBroad Brushがいるが、格別の良血馬というわけでもない。未勝利、500万下と2勝(ダート1600、1800)の条件馬がこの年まで種馬を全うしてきたこと自体、一つの金字塔と言えるだろう。中山大障害を勝ったアポロマーベリックが代表産駒で、平地では6勝現役のアポロビビが筆頭格。セールスポイントは勝ち上がりの良さで、4歳世代までの累計で43%を記録、特にダート1200前後で侮れない強さを発揮する産駒がみられる。

(参考)現3歳世代が初年度となる種牡馬

まだ稼働して間がなく、参考データとなるが、現3歳世代が初年度となる種牡馬の状況を以下まとめている。途中経過的な評価としては、ドレフォンのデータは光るものがあるが、種付料を考慮するとイスラボニータ、ロゴタイプ(頭数小のため欄外に注記。今年の種付料は80万円)が要マークか。

種牡馬基準牝馬産駒・出走頭数基準牝馬EI2022種付料(万円)
ドレフォン252.31700
イスラボニータ101.37150
シルバーステート171.03600
アメリカンペイトリオット181.00150
ディーマジェスティ120.86100
コパノリッキー140.75150
ビッグアーサー120.73100
サトノアラジン140.57100
頭数が限られるため表に含めなかった種牡馬にロゴタイプ(7頭にラブリイユアアイズが含まれる、3.83)
キタサンブラック(4頭、1.24)など