本稿では昨季(2020-2021シーズン)のオーストラリアでの父系別の産駒活躍状況をまとめている。北半球からのシャトル種牡馬も含んだもので、オーストラリアでの父系の現在の勢力図、勢いを俯瞰する目的でまとめたものになる。おおまかな傾向、トレンドを掴む用途でお読み頂ければ幸いである。
※各データはニュージーランドのArion Pedigreesのものを参照している。
1・概要
・獲得賞金上位50頭の種牡馬のデータをまず抽出すると、上位50頭の種牡馬の産駒は9379頭出走し、4406頭が勝利し(46.98%)、251頭がステークス勝ち馬となっている(2.68%)。今回はこの「4406頭(勝利頭数)」、「251頭(ステークス勝ち馬頭数)」を分母とし、系統別の全体比を明らかにしていく。
・獲得賞金上位50頭の種牡馬を父系別におおまかに分類すると以下のようになる。
始祖 | 勝利頭数 | 全体比 | ステークス勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Northern Dancer | 3405 | 77.28% | 200 | 79.68% |
Halo | 382 | 8.66% | 15 | 5.97% |
Sir Tristram | 267 | 6.05% | 20 | 7.96% |
Hyperion | 115 | 2.61% | 3 | 1.19% |
Mr. Prospector | 107 | 2.42% | 7 | 2.78% |
Man o'War | 90 | 2.04% | 3 | 1.19% |
Mill Reef | 40 | 0.90% | 3 | 1.19% |
・Northern Dancerを始祖とする系統が8割に迫る占拠率を誇っているが、当コラムの1回目で触れた欧州繋養種牡馬の現況とよく似ており、欧州繋養種牡馬の北半球産まれの産駒においては、上位100頭の種牡馬の産駒の内、G1馬の79.73%、重賞勝ち馬の78.98%がNorthern Dancerを始祖とする種牡馬の産駒となっている。
・Northern Dancer1強は欧州と同じ構図だが、異なるのは二番手以下の系統。欧州はMr. Prospectorを始祖とする系統が16%前後の占拠率で、二番手として確固たる地位を占めているが、オーストラリアはここが細分化しており、Halo、Sir Tristramの2系統を足しても欧州でのMr. Prospector系の割合には及んでいない。
2・Northern Dancerを始祖とする系統
・Northern Dancerを始祖とする系統を細分化して以下に示す。併記した全体比は勝利頭数は4406を、ステークス勝ち馬数は251を分母にして算定したものとなる。Danzig→デインヒル系の数字は欧州でのSadler’s Wells系の数字を凌ぐ高さで、オーストラリアでの絶対的な地位の高さが分かる。
始祖 | 勝利頭数 | 全体比 | ステークス勝ち馬数 | 全体比 |
---|---|---|---|---|
Danzig→デインヒル | 1656 | 37.58% | 85 | 33.86% |
Sadler's Wells | 542 | 12.30% | 44 | 17.52% |
Fairy King II | 403 | 9.14% | 18 | 7.17% |
Danzig→Green Desert、Bianconi | 397 | 9.01% | 22 | 8.76% |
トライマイベスト | 222 | 5.03% | 15 | 5.97% |
Nureyev | 145 | 3.29% | 12 | 4.78% |
Storm Bird→Storm Cat | 92 | 2.08% | 4 | 1.59% |
2-1・Danzig→デインヒル系
・オーストラリアで一大勢力を築いているのがデインヒル系。TOP10以内に5頭、TOP50以内に17頭がランクインしており、2つのパートに分けて系統図を示す。
※【】内の順位は獲得賞金順位。SWはステークス勝ち馬の意。獲得賞金順位、勝利頭数率、SW輩出率の赤字はTOP10の数字であることを表している。
・デインヒルの直仔は、Fastnet Rock(2011-2012、2014-2015の2回リーディング)、Exceed and Excel(2012-2013リーディング)、Redoute’s Choice(2005-2006、2009-2010、2013-2014の3回リーディング)の3頭のチャンピオンサイアーとBlackfriarsがランクイン。Exceed and Excelは2000年産まれ、Fastnet Rockは2001年産まれと共に高齢で、Redoute’s Choice(1996年産まれ)は2019年3月に亡くなっており、今後はさらに下の世代がこの父系の発展・拡大を担っていくこととなる。
Danzig
└デインヒル
└Fastnet Rock【6位】【228頭出走-111頭勝利(48.68%)-SW14頭(6.14%)】
└Exceed and Excel【9位】【200頭出走-99頭勝利(49.50%)-SW7頭(3.50%)】
└Redoute’s Choice【31位】【142頭出走-63頭勝利(44.37%)-SW6頭(4.23%)】
└Blackfriars【46位】【186頭出走-77頭勝利(41.40%)-SW4頭(2.15%)】
・デインヒルの孫、曾孫世代の中ではRedoute’s Choiceから分岐したサイアーラインが特に隆盛を誇っており、チャンピオンサイアー・SnitzelとSnitzelの直仔・Shamus Award、Redoute’s Choiceの直仔のNot a Single Doubtの3頭がランクイン。Not a Single Doubtは2001年産まれ、Snitzelは2002年産まれの高齢だが、Shamus Awardは2010年産まれの若さ。昨年、コーフィールドCなどG1・3連勝を果たしたIncentiviseを輩出したことで、人気が沸騰した模様で種付頭数が2020年の177頭(種付料1万9800豪ドル)から、2021年は216頭(種付料3万3000豪ドル)と大幅増となっている。
Redoute’s Choice
└Not a Single Doubt【3位】【236頭出走-103頭勝利(43.64%)-SW8頭(3.39%)】
└Snitzel【4位】【319頭出走-161頭勝利(50.47%)-SW13頭(4.08%)】
└Shamus Award【13位】【171頭出走-89頭勝利(52.05%)-SW10頭(5.85%)】
Fastnet Rock
└Smart Missile【20位】【263頭出走-122頭勝利(46.39%)-SW5頭(1.90%)】
└Hinchinbrook【32位】【209頭出走-96頭勝利(45.93%)-SW2頭(0.96%)】
└Foxwedge【33位】【197頭出走-94頭勝利(47.72%)-SW4頭(2.03%)】
Exceed and Excel
└Reward for Effort【34位】【260頭出走-103頭勝利(39.62%)-SW0頭】
└Helmet【44位】【167頭出走-86頭勝利(51.50%)-SW0頭】
・Flying Spurはデインヒルの2ndクロップで、現役時にゴールデンスリッパー、オーストラリアンギニー、オールエイジドSの3つのG1に勝利。2006-2007には豪リーディングサイアーになっている。Flying Spur系の中では、名牝・Black Caviarの半弟になるAll Too Hardがリーディング10位と活躍中。既に5頭のG1馬を出しており、2009年産まれの若さからもこれからさらなる活躍馬の輩出が期待される一頭。
Flying Spur
└Casino Prince【42位】【127頭出走-54頭勝利(42.52%)-SW2頭(1.57%)】
└All Too Hard【10位】【276頭出走-138頭勝利(50.00%)-SW5頭(1.81%)】
└Magnus【21位】【229頭出走-119頭勝利(51.97%)-SW2頭(0.87%)】
Danehill Dancer
└Choisir【41位】【214頭出走-78頭勝利(36.45%)-SW2頭(0.93%)】
コマンズ
└Epaulette【43位】【157頭出走-63頭勝利(40.13%)-SW1頭(0.64%)】
2-2・Sadler’s Wells系
・Galileo、High Chaparral、Montjeu、El Pradoの4つに分岐して拡大中。
Sadler’s Wells
└Galileo【45位】【49頭出走-17頭勝利(34.69%)-SW2頭(4.08%)】
└Teofilo【26位】【62頭出走-25頭勝利(40.32%)-SW3頭(4.84%)】
└High Chaparral
└So You Think【5位】【266頭出走-133頭勝利(50.00%)-SW12頭(4.51%)】
└Toronado【19位】【166頭出走-88頭勝利(53.01%)-SW7頭(4.22%)】
└Dundeel【22位】【188頭出走-83頭勝利(44.15%)-SW5頭(2.66%)】
└Montjeu
└Tavistock【14位】【194頭出走-104頭勝利(53.61%)-SW10頭(5.15%)】
└Camelot【17位】【57頭出走-25頭勝利(43.86%)-SW2頭(3.51%)】
└El Prado
└Medaglia d’Oro【35位】【149頭出走-67頭勝利(44.97%)-SW3頭(2.01%)】
2-3・Fairy King II系
・後継種牡馬を複数出し、この父系の発展に貢献しているNorthern Meteorは、G1-クールモアスタッドSの勝ち馬で、父・Encosta de Lagoの祖母の父と、自身の母父の父が共にMr. Prospectorで、Mr. Prospectoの4×3のインブリードを持つ馬。
Fairy King II
└Encosta de Lago
└Northern Meteor
└Zoustar【7位】【247頭出走-142頭勝利(57.49%)-SW12頭(4.86%)】
└Deep Field【16位】【226頭出走-119頭勝利(52.65%)-SW5頭(2.21%)】
└Shooting to Win【40位】【141頭出走-71頭勝利(50.35%)-SW1頭(0.71%)】
└Rubick【47位】【184頭出走-71頭勝利(38.59%)-SW0頭】
2-4・Danzig→Green Desert、Bianconi系
・この父系ではI Am Invincibleがランキング2位と一流種牡馬の地位を確保。初年度は1万1000豪ドルだった種付料は2021年は22万豪ドル。先日3/19にニュージーランドのG1・レビンクラシック(t1600m)を産駒のImperatriz(牝3)が勝ち、現3歳までの8世代で早くも12頭目の産駒G1馬を輩出。1stクロップのBrazen Beau(Danzig 4×3、Bletchingly 4×3のインブリードを持つ)もG1馬を出しており、ランキング38位と躍進中。
Danzig
└Green Desert
└Invincible Spirit
└I Am Invincible【2位】【358頭出走-208頭勝利(58.10%)-SW12頭(3.35%)】
└Brazen Beau【38位】【143頭出走-70頭勝利(48.95%)-SW4頭(2.80%)】
└Bianconi
└Nicconi【12位】【268頭出走-119頭勝利(44.40%)-SW6頭(2.24%)】
2-5・トライマイベスト系
・Written TycoonがSnitzelの5連覇を阻止して初のリーディングを獲得。2002年産まれの種牡馬だが、後継候補として2016年のゴールデンスリッパーの勝ち馬・Capitalistがおり、既に1stクロップ(現3歳)から2歳G1-シャンペンSの勝ち馬・Captivantを出す上々のスタートを切っている。Capitalistは2020年は237頭に種付けし(種付料4万4000豪ドル)、2021年は243頭に種付け(種付料9万9000豪ドル)。昨年の243頭は豪州繋養種牡馬のトップの数字で、種付料が前年の倍以上になっているにも関わらずこの人気ぶりは驚異的。
・O’Reillyはニュージーランドで4度、リーディングサイアーになった大種牡馬。直仔・Sacred Fallsは現役時にドンカスターマイル連覇など豪・NZで4つのG1を制した馬。2016年産まれが1stクロップという若い種牡馬だが既に2頭のG1馬が出ており、出走頭数が少ないとはいえ、勝利頭数率(50頭中1位)やSW輩出率(50頭中3位)の異例の高さは注目に値する。
トライマイベスト
└ラストタイクーン
└Iglesia
└Written Tycoon【1位】【379頭出走-193頭勝利(50.92%)-SW12頭(3.17%)】
└O’Reilly
└Sacred Falls【37位】【48頭出走-29頭勝利(60.42%)-SW3頭(6.25%)】
2-6・Nureyev系
・ソヴィエトスターとスピニングワールドを経由した2系統のサイアーラインが伸びている状況。
Nureyev
└ソヴィエトスター
└Starcraft
└Star Witness【24位】【272頭出走-100頭勝利(36.76%)-SW5頭(1.84%)】
└スピニングワールド
└Thorn Park
└Ocean Park【25位】【95頭出走-45頭勝利(47.37%)-SW7頭(7.37%)】
2-7・Storm Bird→Storm Cat系
・Lope de Vegaは南半球でも確かな実績を残しており、これまでにG1・5勝のSanta Ana Lane、G1・2勝のVega Magicなどを出している。
Storm Bird
└Storm Cat
└Giant’s Causeway
└Shamardal
└Lope de Vega【30位】【92頭出走-40頭勝利(43.48%)-SW4頭(4.35%)】
3・Haloを始祖とする系統
・上位50頭に入っているこの系統の種牡馬は全て大種牡馬・More Than Readyとその直仔、孫の4頭。今後はここにディープインパクト産駒で現地でスタッドインしているFierce Impact(豪G1・3勝。ケイアイノーテックの全兄)やトーセンスターダム(豪G1・2勝)が食い込んでいけるかが注目ポイント。Fierce Impactはデインヒルの血を持っていない馬で、現地での需要は相当高そうなだけに数年後にランクインしてきても全く不思議ではない印象だが果たしてどうなるか。
・またHalo系ではなくHail to Reason系と読み替えると、モーリスもここに入ってくる存在。Hitotsuのヴィクトリアダービー、オーストラリアンギニー勝ちでモーリスの評価が急騰していることは疑いなく、シャトル先で既に現在でも100頭を超える種付頭数を誇っているが、今後は特に繁殖牝馬の質の面での向上が見込まれ、先行きは明るい印象。
・尚、今期(2021-2022シーズン)の現時点の豪サイアーランキングで日本産の馬は2頭が50位以内にランクインしており、リアルインパクトが31位(93頭出走-36頭勝利(38.70%)-SW0頭)、モーリスが32位(59頭出走-27頭勝利(45.76%)-SW2頭)。
Halo
└Southern Halo
└More Than Ready【50位】【195頭出走-74頭勝利(37.95%)-SW1頭(0.51%)】
└Sebring【8位】【330頭出走-149頭勝利(45.15%)-SW10頭(3.03%)】
└Dissident【48位】【207頭出走-77頭勝利(37.20%)-SW2頭(0.97%)】
└Better Than Ready【29位】【166頭出走-82頭勝利(49.40%)-SW2頭(1.20%)】
4・Sir Tristramを始祖とする系統
・オーストラリアで6回、ニュージーランドで7回リーディングサイアーとなった大種牡馬・Sir Tristramの系統。Savabeelは2014-2015シーズン以降、ニュージーランドのリーディングサイアーに7期連続で君臨中の大種牡馬。
・Pierroは現役時にゴールデンスリッパー、サイアーズプロデュースS、シャンペンSのシドニー2歳3冠を達成した馬で、現在12歳。Regal Power(キングストンタウンクラシック等)、Arcadia Queen(コーフィールドS等)、Pierata(オールエイジドS)などのG1馬を輩出中で、2021年の種付料は11万豪ドル。
Sir Tristram
└Zabeel
└Savabeel【15位】【187頭出走-92頭勝利(49.20%)-SW8頭(4.28%)】
└Zed【28位】【19頭出走-4頭勝利(21.05%)-SW2頭(10.53%)】
└Octagonal
└Lonhro【36位】【145頭出走-68頭勝利(46.90%)-SW5頭(3.45%)】
└Pierro【11位】【214頭出走-103頭勝利(48.13%)-SW5頭(2.34%)】
5・Hyperionを始祖とする系統
・Spirit of Boomが18位に入っており、これがこの系統唯一のTOP50入りの種牡馬。Spirit of Boomはドゥーンベン10000、ウィリアムレイドSの2つのG1を含む重賞3勝。自身の母父がデインヒルの直仔で、産駒の血統表の「4」の位置にデインヒルが来る妙味があり、昨年のG1-マニカトSを制した代表産駒・Jonkerはデインヒル4×3のインブリードを持つ。
Hyperion
└Aristophanes
└Forli
└Thatch
└Thatching
└Rustic Amber
└Sequalo
└Spirit of Boom【18位】【221頭出走-115頭勝利(52.04%)-SW3頭(1.36%)】
6・Mr. Prospectorを始祖とする系統
・Street Bossが23位、Hallowed Crownが27位にランクインしているが、欧州、米国と比べるとこの系統の存在感は薄い。
Mr. Prospector
└Machiavellian
└Street Cry
└Street Boss【23位】【169頭出走-63頭勝利(37.28%)-SW5頭(2.96%)】
└ストリートセンス
└Hallowed Crown【27位】【80頭出走-44頭勝利(55.00%)-SW2頭(2.50%)】
7・Man o’Warを始祖とする系統
・Dream Aheadが39位にランクイン。欧州ではGlass Slippers(BCターフスプリント、アベイドロンシャン賞、フライングファイブS)、Al Wukair(ジャックルマロワ賞)、Donjuan Triumphant(ブリティッシュチャンピオンズスプリントS)、Dream of Dreams(ダイヤモンドジュビリーS)の4頭のG1馬を輩出し、この父系の屋台骨を支えている存在。南半球からはまだ大物は出ていないが、勝利頭数率52.02%はかなり優秀な数字で、上位50頭の種牡馬の内、10番目に高い数字になる。
Man o’ War
└War Relic
└Intent
└Intentionally
└In Reality
└Known Fact
└ウォーニング
└ディクタット
└Dream Ahead【39位】【173頭出走-90頭勝利(52.02%)-SW3頭(1.73%)】
8・Mill Reefを始祖とする系統
・Reliable Manが49位にランクイン。欧州では系統的には傍流になるが、南半球では供用先のニュージーランドで産まれた3頭がこれまでにG1に勝利。2020-2021シーズンのNZサイアーランキング17位。欧州ではドイツにて供用されており、欧州産まれの産駒からはG2勝ち馬1頭、G3勝ち馬4頭が出ている。2021年のドイツサイアーランキングでは10位。
Nasrullah
└Never Bend
└Mill Reef
└Shirley Heights
└Darshaan
└Dalakhani
└Reliable Man【49位】【108頭出走-40頭勝利(37.04%)-SW3頭(2.78%)】
・次回はニュージーランドの父系別の現況にも触れながら、南半球の注目種牡馬をピックアップしていく予定。