今回はキタサンブラックを取り上げる。イクイノックス(G2-東京スポーツ杯2歳S)、ジャスティンスカイ(フリージア賞)、ブラックブロッサム(大寒桜賞)、オディロン(3歳1勝クラス)、ラスール(3歳1勝クラス)の5頭の2勝馬を輩出中で、これまでの産駒成績は良好。血統にフォーカスし、キタサンブラック産駒の未来を切り取っていきたい。
1・キタサンブラックとLyphard
・キタサンブラックは自身、Lyphardの4×4のクロスを持つ馬(血量12.50%)。9代血統表内のクロス馬でLyphardが最も多い血量を占めており、以下、Northern Dancer(9.38%)、Goofed(Lyphardの母、6.25%)、Nearco(6.05%)と続く。
・Lyphardは1969年米国産のNorthern Dancer産駒で、ジャックルマロワ賞、フォレ賞の勝ち馬。1978,79年の仏リーディングサイアー、1986年の米リーディングサイアーで代表産駒はダンシングブレーヴ、という大種牡馬。日本にはダンシングブレーヴ以外にモガミ(レガシーワールド、メジロラモーヌ、シリウスシンボリなどを輩出)、リィフォー(ニッポーテイオーなどを輩出)、ベリファなどの種牡馬が供用され、多くの産駒が残されてきた。
1-1・母系にもLyphardが入った産駒と入っていない産駒の比較
・今回、キタサンブラック産駒について考える上でLyphardに着目し、父方以外に産駒の母系にLyphardが1本入っている馬と入っていない馬を比較した。Lyphardが強調されている馬とそうではない馬で競走成績に差が出ていないか、調べてみた結果は以下の通り。
Lyphard・父方の2本のみ:53頭出走-17頭勝ち上がり(32.1%)
Lyphard・父方の2本+母方の1本:10頭出走-6頭勝ち上がり(60.0%)
・これまでに母系にLyphardが1本入っている馬は非常に高い勝ち上がり率を示しているのは注目に値する。ちなみにサンデーサイレンスのクロス(3×3、3×4)を持っているキタサンブラック産駒は、11頭が出走し、4頭が勝ち上がり(36.4%)。これと比べても母系にLyphardが1本入っているキタサンブラック産駒の60.0%という勝ち上がり率はやはり優秀と言える。
1-2・2勝馬5頭の内、2頭は母系にもLyphardが入った産駒
・勝ち上がった6頭中、2頭(イクイノックス、ジャスティンスカイ)が2勝をあげている中身の濃さも注目に値するデータ。ここまでに5頭いるキタサンブラック産駒の2勝馬の内、2頭はLyphardが3本入っている馬となっている。勝ち上がった6頭は以下の通り。尚、()内の数値は血量。ちなみにサンデーサイレンスのクロス(3×3、3×4)を持っているキタサンブラック産駒でまだ2勝目をあげた馬はいない。
イクイノックス【2勝】:Lyphard5+5×4(12.50%)
ジャスティンスカイ【2勝】:Lyphard5+5×5(9.38%)
ビジュノワール【1勝】:Lyphard5+5×4(12.50%)
メトセラ【1勝】:Lyphard5+5×4(12.50%)
ミッキーハーモニー【1勝】:Lyphard5+5×5(9.38%)
ユキノエリザベス【1勝】:Lyphard5+5×4+5(15.63%)
・ちなみに残り3頭の2勝馬のインブリード状況の内、最も血量の多いクロスをまとめたものが以下になる。
オディロン【2勝】:Highclere5×5(6.25%)
※Highclereはディープインパクトの曽祖母で英1000ギニー、仏オークスの勝ち馬。エリザベス女王の自家生産馬。
ブラックブロッサム【2勝】:Halo4×5(9.38%)
ラスール【2勝】:Halo4×4(12.50%)
・参考までに、未出走のキタサンブラック産駒は抹消となった1頭を除くと10頭おり、この内、産駒の母系に5代血統表内にてLyphardが1本入っている馬は3頭いる。3頭とも現在不在厩だが、今後、どこかでデビューとなった際は、これまでの高い勝ち上がり率を踏まえると注目したほうがいいかもしれないだろう。
ピエドラデルーナ(牝3・母:スイープトウショウ、ノーザンファーム産)
Lyphard5+5×4(12.50%)
ピアツァサンマルコ(牝3・母:ヴェイルドクリス、社台ファーム産)
Lyphard5+5×5(9.38%)
パロマル(牡3、母:ペンカナプリンセス、ノーザンファーム産)
Lyphard5+5×5(9.38%)
2・Lyphardの血の影響力について
・キタサンブラック産駒において、Lyphardの血を強調するクロスが結果を出している中、これまでに他の種牡馬の産駒においてはどうなっているのか、について以下、調べている。
2-1 ディープインパクト産駒
・Lyphardはディープインパクトの母父・Alzaoの父。ディープインパクト産駒にも大きな影響を与えている血になるが、主なディープインパクト産駒の中でLyphardの血量を多く持つ馬を以下にピックアップする。
ジェンティルドンナ:Lyphard4×4(12.50%)
コントレイル:Lyphard4×6(7.81%)
グローリーヴェイズ:Lyphard4×5(9.38%)
ダノンキングリー:Lyphard4×6(7.81%)
スマートレイアー:Lyphard4×4+5(15.63%)
ダノンファンタジー:Lyphard4×5(9.38%)
トーセンラー:Lyphard4×4(12.50%)
ロジャーバローズ:Lyphard4×4+6(14.06%)
スピルバーグ:Lyphard4×4(12.50%)
・ディープインパクト産駒の収得賞金トップのジェンティルドンナと2位のコントレイルは、共にLyphardの血量を多く持つ馬で、ジェンティルドンナは9代血統表内のクロス馬の中でLyphardはNorthern Dancerと並んでトップの12.50%の血量を占めている。コントレイルはトップのFappiano(9.38%)に次ぐ2番目がLyphard(7.81%)。
2-2 ハーツクライ産駒
・ハーツクライの母母父もLyphard。ハーツクライ産駒の中でLyphardの血量を多く持つ馬をピックアップすると以下のようになる。リスグラシューは9代血統表内のクロス馬の中でトップの血量15.63%をLyphardが占めている。
リスグラシュー:Lyphard4×4+5(15.63%)
タイムフライヤー:Lyphard4×4(12.50%)
ドウデュース:Lyphard4×4(12.50%)
2-3 母父・キングヘイロー産駒
・昨今、「母父・キングヘイロー」の産駒の活躍が目覚ましいが、キングヘイローの祖父がLyphard。母父・キングヘイローの主な産駒の中でLyphardの血量を多く持つ馬をピックアップする。これらの中にイクイノックスも含まれるので、今期の新種牡馬の内、シルバーステート(ウォーターナビレラ)、キタサンブラック(イクイノックス)の2頭はLyphardのクロスを持つ馬が初の産駒重賞勝ち馬となっている。
ディープボンド(父・キズナ):Lyphard5×4(9.38%)
ピクシーナイト(父・モーリス):Lyphard5×4(9.38%)
スマートクラージュ(父・ディープインパクト):Lyphard4×4(12.50%)
ウォーターナビレラ(父・シルバーステート):Lyphard5×4(9.38%)
3・最後に
・サンデーサイレンスのクロスが今後、しばらくの間は安定して猛威を振るい、注目を継続的に集めていくであろうことは衆目の一致するところだろうが、「母父・キングヘイロー」に俄かに脚光が集まったような血統的なモメンタムを得て時流に乗ってくる血は今後も散発的に出てくるだろう。
・Lyphardは年代的に血統表の「4」や「5」よりも後ろに位置する血だが、ディープインパクト、ハーツクライの種牡馬としての成功を下支えしてきた確かな実績があり、今後は自身がLyphardのインブリードを持つキタサンブラックの種牡馬としての成功を母系から下支えしていくのではないか、と推察されるがいかがだろうか。Lyphardのアシストの効き具合に着目しつつ、今後のキタサンブラック産駒の動向を見守っていきたい。