コラム・種牡馬データを読む【7】エフフォーリアの大敗が意味するもの

今回は直近のトピックから種牡馬データをランダムに取り上げていく。取り上げていくトピックはドバイ、高松宮記念、大阪杯。ドバイではステイフーリッシュとステイゴールド、クラウンプライドとリーチザクラウンについて、高松宮記念はナランフレグとゴールドアリュール、大阪杯は大敗したエフフォーリアとエピファネイアに焦点をあてる。

海外遠征で6勝目をあげたステイゴールド産駒

・ステイゴールド産駒はこれまでに海外遠征に21回出走して6勝、2着5回勝ち鞍の「6」はディープインパクトに次ぐ2位で、日本調教馬の海外遠征において近年、中核的な活躍をしてきたのがステイゴールド産駒。直仔のオルフェーヴルからマルシュロレーヌ(BCディスタフ)、オーソリティ(ネオムターフC)の2頭の海外重賞勝ち馬が出ており、今後も海外で滅法強い「ステイゴールド系」の海外挑戦は楽しませてくれそうである。

 ステイゴールド産駒の海外遠征記録

 2010年・ナカヤマフェスタ:フォワ賞2着、凱旋門賞2
 2011年・ナカヤマフェスタ:フォワ賞4着、凱旋門賞11着
 2011年・ナカヤマナイト:ニエル賞6着、ドラール賞10着
 2012年・オルフェーヴル:フォワ賞1着、凱旋門賞2
 2013年・オルフェーヴル:フォワ賞1着、凱旋門賞2
 2014年・ゴールドシップ:凱旋門賞14着
 2018年・クロコスミア:ドバイターフ7着、香港ヴァーズ10着
 2019年・インディチャンプ:香港マイル7着
 2019年・ウインブライト:クイーンエリザベス2世C1着、香港カップ1
 2020年・ウインブライト:香港カップ2
 2021年・インディチャンプ:香港マイル5着
 2021年・ステイフーリッシュ:香港ヴァーズ5着
 2022年・ステイフーリッシュ:レッドシーターフH1着、ドバイゴールドC1

・ちなみに1958年のハクチカラ以降、多くの日本調教馬が海外遠征を行ってきたが、レースの格は問わずに集計すると海外遠征で勝利した日本調教馬はのべ71頭。以下、種牡馬別の勝ち馬頭数、勝利数をまとめている。

 ディープインパクト11頭15勝
 ヴィブロス、エイシンヒカリ(2勝)、キズナ、グローリーヴェイズ(2勝)、ジェニアル、ジェンティルドンナ、シャフリヤール、マカヒキ、ラヴズオンリーユー(3勝)、リアルインパクト、リアルスティール

 サンデーサイレンス4頭5勝
 ステイゴールド(2勝)、ダンスインザムード、ハーツクライ、ハットトリック

 ハーツクライ4頭4勝
 アドマイヤラクティ、ジャスタウェイ、ヌーヴォレコルト、リスグラシュー

 ステイゴールド3頭6勝
 ウインブライト(2勝)、オルフェーヴル(2勝)、ステイフーリッシュ(2勝)

 キズナ3頭3勝
 ソングライン、ディープボンド、バスラットレオン

 ロードカナロア3頭3勝
 アーモンドアイ、ダノンスマッシュ、パンサラッサ

・ステイフーリッシュの父・ステイゴールドは自身、6歳で目黒記念を勝ち、7歳で日経新春杯、ドバイシーマクラシック、香港ヴァーズを制した馬。産駒のステイフーリッシュが7歳になり、レッドシーターフH、ドバイゴールドCを連勝したのは父を彷彿とさせるものがあるが、JRAの芝重賞で6歳以上の馬が勝った事例はどれくらいあるのか調べてみた。

・2000年以降のJRA芝重賞総数2435の内、6歳以上の馬が勝ったレースは378(15.5%)。6歳以上の産駒が重賞を制した数の種牡馬別TOP3はサンデーサイレンス、ディープインパクト、ステイゴールドの3頭。これら3頭の産駒のトータルの芝重賞勝利数と、6歳以上の勝利数を比較すると以下のようになる。ステイゴールドは平均の15.5%を上回る18.08%が6歳以上での重賞勝ちで、晩成気質が数字に表れており、ディープインパクトはこれとは真逆になっているのはイメージ通りの数字だろう。

 ディープインパクト
 【トータル】265勝、【6歳以上】27勝(10.18%)

 サンデーサイレンス
 【トータル】214勝、【6歳以上】31勝(14.48%)

 ステイゴールド
 【トータル】94勝、【6歳以上】17勝(18.08%)

・報道によるとステイフーリッシュの次走は宝塚記念になった模様で、レース直後に矢作師が言及したロイヤルアスコットのゴールドカップへの参戦はどうやら無くなった模様。ロイヤルアスコットのゴールドカップといえば、開催期間中にいくつかあるエリザベス女王から優勝カップを授与されるレースの一つでロイヤルアスコットミーティング3日目のメインレースだが、妙味はその先にあり、優勝した場合、欧州での障害用種牡馬としての道が開ける可能性があるという点。

・現状、日本ではステイフーリッシュが仮にスタッドインした場合、質量共に限定的な繁殖牝馬しか集まらない可能性があるが、仮にロイヤルアスコットの晴れ舞台で強さを見せた場合、障害用種牡馬としてのオファーが来る可能性がないだろうか。仮にそうなった場合、ステイフーリッシュ産駒がチェルトナムフェスティバルやグランドナショナルなどの大舞台で躍動する未来まで妄想出来よう。

・尚、秋のメルボルンカップ遠征の可能性はまだ消えていない模様。検疫費用、調教師の移動手段、現地携帯電話は施行団体、レーシングヴィクトリアから補助されるが、輸送費や関係者渡航費は自己負担。ただ、芝3200mという今のステイフーリッシュにとって絶好の条件な上、日本に適鞍が無いシーズンであることを踏まえると、選択肢としてはかなり有力なのではないだろうか。ちなみにラドブロークスでは現在、メルボルンカップの1番人気(17倍)に5頭が名を連ねており、この中にステイフーリッシュはモーリス産駒・Hitotsu、昨年の覇者・Verry Elleegantらと共に入っている。メルボルンカップを勝って、8歳となる来年はロイヤルアスコットへ、というのは欲張りすぎな妄想だろうか。

 ラドブロークスの現時点のメルボルンカップ単勝上位人気馬

 Hitotsu:17倍
 ・現在G1・3連勝中のモーリス産駒。秋はコックスプレートからジャパンカップへ、というプランがあるようだが、メルボルンカップを使ってくれば実績からも上位人気は確実な存在。

 Incentivise:17倍
 ・昨年G1・3連勝を果たし、G1・4連勝を狙ってメルボルンカップへ挑むも2着。今季はまだ未出走の馬。父はShamus Award。

 ステイフーリッシュ:17倍
 テーオーロイヤル:17倍
 ・日本調教馬2頭が同率で1番人気タイ。現在4連勝中のリオンディーズ産駒・テーオーロイヤルは5/1の天皇賞(春)に出走予定。

 Verry Elleegant:17倍
 ・昨年の覇者G1・11勝の女傑で今季は既に2/26のG1-チッピングノートンSに勝利。今週4/9のG1-クイーンエリザベスSに出走。

クラウンプライドを輩出したリーチザクラウン

・リーチザクラウン産駒はこれまでにJRAで147頭が出走し、45頭が勝ち上がり(30.61%)、通算64勝。芝とダートではダートのほうが勝率、連対率、複勝率が若干高いものの、特筆すべき数字ではない。尚、JBISによるとリーチザクラウンの中央累計CPIは0.79、AEIは0.57

 芝:35勝、2着37回、3着36回;勝率5.0%、連対率10.2%、複勝率15.4%
 ダ:29勝、2着17回、3着26回:勝率6.7%、連対率10.6%、複勝率16.5%

・リーチザクラウン産駒でトップの勝ち鞍は3勝。3勝をあげた馬は重賞ウイナー・キョウヘイを筆頭に4頭いるが、これらの母4頭はいずれも現役時は中央未勝利だが、産駒成績は総じて良く、特に3勝馬・ニシノドレッシーの母、プレシャスエルフのそれは特筆に値する。これくらいの繁殖成績を誇る牝馬との産駒なら中央で3勝をあげるのも頷けるか。

 ニシノドレッシーの母・プレシャスエルフの繁殖成績

 ピアシングステア(父・バトルプラン):4勝・収得賞金1550万円
 キアロスクーロ(父・スタチューオブリバティ):4勝・収得賞金1550万円
 クリノレオノール(父・ファスリエフ):3勝(現役)・収得賞金950万円
 ニシノドレッシー(父・リーチザクラウン):3勝・収得賞金1500万円
 メイショウカズサ(父・カジノドライヴ):7勝(現役)・収得賞金7000万円(中央)+5830万円(地方)
 ※浦和記念、プロキオンS、白山大賞典の勝ち馬
 シュルードアイズ(父・バトルプラン):3勝(現役)・収得賞金1500万円
 サザンエルフ(父・パイロ):1勝(現役・今年1月の新馬勝ち)・収得賞金400万円

・クラウンプライドはルメールを鞍上に迎え、ケンタッキーダービーへ参戦する旨、報じられているが、実現すれば日本調教馬4頭目、日本産馬2頭目の挑戦となる。ご覧頂くと分かるが、年々、着を上げてきており、抜けた人気になりそうな主軸不在の今年のメンバーなら一発あってもおかしくないと思うのは贔屓目が過ぎるだろうか。

 1995年・スキーキャプテン(父・Storm Bird):14着(勝ち馬・Thunder Gulch)
 2016年・ラニ(父・Tapit):9着(勝ち馬・Nyquist)
 2019年・マスターフェンサー(父・ジャスタウェイ):6着(勝ち馬・Country House)

・クラウンプライドは社台グループオーナーズの馬で、1口150万円×10口の募集。中央競馬の馬主登録を既に持っている者による共有システムが故、通常の一口馬主とは異なり、今回のケンタッキーダービー挑戦も経済的な面で障壁は低かったものと推察される。ウィリアムヒルでは現在、クラウンプライドの単勝オッズは26倍。今年のケンタッキーダービーはまだ今週末のサンタアニタダービーなどいくつかのプレップレースが残っているが、現時点で1番人気が8倍、2番人気が9倍という混戦模様。挑戦しがいのあるシチュエーションと言え、日本時間5/8(日)の早朝は期待を持って中継を見守ることが出来そうだが、どうなるか。

8年ぶりに芝重賞勝ち馬を送り出したゴールドアリュール

・高松宮記念を8番人気で制したナランフレグの父はゴールドアリュール。ゴールドアリュールは先月末までに産駒が1051勝をあげているが、ダートで916勝(87.16%)、芝で114勝(10.85%)、障害で21勝(1.99%)。産駒の芝での重賞実績は4勝、2着8回、3着11回。ナランフレグは8年前のフーラブライド以来の芝重賞勝利がG1となっている。4勝の内訳を見ると中山と中京で各2勝。共にいわゆる重い芝の競馬場での勝利で、適性的には東京、京都のような軽い芝よりは向いていると言えるかもしれない。

 ゴールドアリュール産駒のJRA芝重賞勝利

 ナランフレグ(母父・ブライアンズタイム):2022/03/27・高松宮記念
 フーラブライド(母父・メジロマックイーン):2014/03/16・中山牝馬S
 フーラブライド(母父・メジロマックイーン):2013/12/14・愛知杯
 タケミカヅチ(母父・マルゼンスキー):2009/04/05・ダービー卿CT

・そもそも、ゴールドアリュール産駒が芝のレースを勝つ事は近年、非常に稀となっており、2022年はナランフレグの高松宮記念勝ちが初勝利。2021年はナランフレグ(タンザナイトS)、フーラブライドの全弟・メイケイハリアー(三木特別)の2勝のみ。2020年はヒルノマリブ(紅梅S)のみ。2019年は4頭が7勝をあげているが、この4頭中3頭はナランフレグ、メイケイハリアー、ヒルノマリブと翌年以降も芝で勝った馬の勝利である。

・勝ったナランフレグの母父はブライアンズタイム。ブライアンズタイムが母父として芝のG1馬を輩出したのは2017年のホープフルSを勝ったタイムフライヤー(父・ハーツクライ)以来、これが6頭目。6頭のG1勝ちの内、1番人気で勝ったのはタイムフライヤーのみで、残り5頭は8番人気以下での勝利。

 ナランフレグ(父・ゴールドアリュール):2022/03/27・高松宮記念(8番人気)
 タイムフライヤー(父・ハーツクライ):2017/12/28・ホープフルS(1番人気)
 ディーマジェスティ(父・ディープインパクト):2016/04/17・皐月賞(8番人気)
 ビートブラック(父・ミスキャスト):2012/04/29・天皇賞(春)(14番人気)
 スリーロールス(父・ダンスインザダーク):2009/10/25・菊花賞(8番人気)
 ティコティコタック(父・サッカーボーイ):2000/10/15・秋華賞(10番人気)

・ブライアンズタイムは近5年の中央BMSランキングで5位→10位→11位→11位→13位。2008年から2017年まで5位以内に10年連続でランクインしていたが、時代の進展に伴い緩やかにランクを落としているところで、近年では「母母父」としてオークス馬・ユーバーレーベンや、ソリストサンダー(武蔵野S)、マイネルファンロン(新潟記念)を送り出している。

エフフォーリアの大阪杯での大敗について

・大阪杯で大敗したエフフォーリア。3歳で年度代表馬(JRA賞、優駿賞、啓衆社賞)に選出された馬で、無事4歳初戦に出走した25頭の内、4着以下に敗れた馬は5頭目になるが、9着は最低着順。調整過程やレース直前のゲートでの事象について報じられているが、見せ場なく敗れた内容は印象が良いものではなく、次走は宝塚記念になる模様だが、ここはまさしく正念場の一戦となりそうである。

・3歳でJRA賞年度代表馬に選出された馬は、1987年のサクラスターオー、1992年のミホノブルボン以外の11頭が無事4歳でも出走しているが、4歳初戦では2002年の年度代表馬・シンボリクリスエスが翌年の宝塚記念で5着に敗れた以外は全て1着か2着と期待に応えてきた。

・JRA賞の前身、優駿賞と啓衆社賞の年度代表馬に3歳(当時の4歳)で選出された馬は14頭が4歳になっても出走しているが、14頭中、8頭が1着、2頭が2着、1頭が3着で、4着以下に敗れたのは1972年のイシノヒカル(7着)、1963年のメイズイ(5着)、1959年のウイルデイール(5着)の3頭。

・ここでは古馬になってからの戦績、という観点で「4歳1月から3月末まで」の産駒成績を近年の有力種牡馬のクロップごとにまとめている。勝率、連対率にかなり差が出ており、エピファネイア産駒の数字の低さが特に目立っている

種牡馬Crop1着2着出走回数勝率連対率
エピファネイア1st(2017年産)58736.8%17.8%
エピファネイア2nd(2018年産)65738.2%15.1%
キズナ1st(2017年産)151613211.4%23.5%
キズナ2nd(2018年産)181010217.6%27.5%
モーリス1st(2018年産)1749018.9%23.3%
ドゥラメンテ1st(2018年産)1378914.6%22.5%

・時期的に上記の区切り方では施行レースはダートが多いため、ダートが不得手な種牡馬は数字が低く出る可能性がある点も考慮し、4歳1月から4歳12月までのデータも集計している。この数字を見るとエピファネイアに関しては上のデータと大差は無く、キズナが4月以降、25勝を積み上げているのに対し、出走回数が半分以下とは言え、エピファネイアが積み上げた数字は10勝。古馬になってからの数字は総じて凡庸なものとなっていることが分かる

種牡馬Crop1着2着出走回数勝率連対率
エピファネイア1st(2017年産)15192196.8%15.5%
キズナ1st(2017年産)40424658.6%17.6%

・参考までに「5歳1月から3月末まで」のデータもまとめている。エピファネイア産駒の「0」「2」という数字が非常に目立っているが、同時期の4歳時の戦績をみると、ある程度は予想出来る数字ではあるだろう。ヴィクトリアマイルで復帰予定と報じられているエピファネイア産駒の5歳牝馬・デアリングタクトは、こうしたネガティブなデータを覆すことは出来るのか、注目となる。

種牡馬Crop1着2着出走回数勝率連対率
エピファネイア1st(2017年産)02500.0%4.0%
キズナ1st(2017年産)64906.7%11.1%

※3歳で年度代表馬に選出された馬の翌年初戦成績一覧

・多くのチャンピオンホースが仮に敗れる場合でも最低限の形は作ってきた歴史が見て取れる中、エフフォーリアの9着という結果はかなり異例。

JRA賞
2021 エフフォーリア:大阪杯9着
2018 アーモンドアイ:ドバイターフ1着
2012 ジェンティルドンナ:ドバイシーマクラシック2着
2011 オルフェーヴル:阪神大賞典2着
2005 ディープインパクト:阪神大賞典1着
2002 シンボリクリスエス:宝塚記念5着
2001 ジャングルポケット:阪神大賞典2着
1995 マヤノトップガン:阪神大賞典2着
1994 ナリタブライアン:阪神大賞典1着
1993 ビワハヤヒデ:京都記念1着
1992 ミホノブルボン:未出走
1991 トウカイテイオー産経大阪杯1着
1987 サクラスターオー:未出走

優駿賞
1986:ダイナガリバー:日経賞3着
1984:シンボリルドルフ:日経賞1着
1983:ミスターシービー:毎日王冠2着
1976:トウショウボーイ:宝塚記念1着
1975:カブラヤオー:オープン1着
1974:キタノカチドキ:オープン2着
1973:タケホープ:AJCC1着
1972:イシノヒカル:オープン7着

啓衆社賞
1968:アサカオー:AJCC1着
1964:シンザン:オープン1着
1963:メイズイ:AJCC5着
1960:コダマ:大阪杯1着
1959:ウイルデイール:AJCC5着
1955:オートキツ:オープン1着

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