今月初めのダービー卿CTを勝ったタイムトゥヘヴンは桜花賞馬キストゥヘヴンの8番仔で、感慨深い母子重賞制覇達成として、メディアで取り上げられた。この感慨の深さ、の裏には、ここまでのキストゥヘヴンの繫殖成績の不振がある、と推測されるところで、初仔から3番仔まで中央未勝利、4番仔が未出走、5番仔・6番仔も中央未勝利と、首をひねらざるを得ないような歳月を経た後に、7番仔ガロシェ2勝(2着7回、3着9回とよく走り、本賞金額は7000万円を超えた)、8番仔タイムトゥヘヴンが重賞を勝ち、現3歳の9番仔エールトゥヘヴンも2歳12月に勝ち上がって、セントポーリア賞4着と素質の一端を披露、と、一転して堰を切ったような活躍が始まったのはここ最近のことである。

キストゥヘヴンの桜花賞勝利は6番人気でのものだったが、4角13番手から最速上がりの豪脚で一気の差し切りをおさめたもので、その性能の高さ(優れた遺伝子を保有していることの現れである、と捉えて差し支えないだろう)は、古馬になって京王杯AHなどを勝ち重賞計4勝という成績によっても十分裏書きされているように思える。そのはず、なのだが、実際の仔出しが冴えなければ疑心が生じる場面もあったかもしれない。母の面目躍如を果たしたタイムトゥヘヴンは、報道によれば母も挑んだ安田記念(2007年8着、2008年7着)を大目標に調整されるとのこと。

注)結果論ではあるが、初仔・2番仔がチチカステナンゴの供用初年度・2年目、3番仔がハービンジャーの初年度、5番仔がワークフォースの2年目、6番仔がオルフェーヴルの初年度と、新鋭の、現在の視点で振り返れば安定性の高くない種牡馬が交配されてきたことが影響しただろうか(4番仔はキングカメハメハの供用8年目だったが、上述の通り未出走)。なお、7番仔ガロシェはルーラーシップ、8番仔タイムトゥヘヴン・9番仔エールトゥヘヴンはロードカナロアの産駒。

そもそも競走馬として優れた牝馬は、繁殖牝馬としてどの程度優れているのか、ということについて考えてみたい。

桜花賞馬・オークス馬の繁殖成績(1986年以降)

以下、桜花賞馬・オークス馬の産駒成績を元に考察する。ここでは1986年に史上初の三冠牝馬となったメジロラモーヌまでを一区切りとした。

そのメジロラモーヌ以降の桜花賞馬の産駒のJRA出走頭数は現時点で166頭で、内、勝ち上がりは103頭、勝ち上がり率は62%となる。重賞勝馬は計9頭で18頭に1頭程度が重賞勝馬、GⅠ馬は計5頭で33頭に1頭がGⅠ馬、という結果となる。

同様にオークス馬のケースでは、JRA出走頭数は191頭、勝ち上がりは106頭、勝ち上がり率は55%。重賞勝馬は13頭で15頭に1頭程度が重賞勝馬、GⅠ馬は8頭で24頭に1頭程度がGⅠ馬、となる。

桜花賞馬、オークス馬には当然重複もある。両者の比較でどれほどの意味がくみ取れるかは不明だが、桜花賞をスピード重視のレース、オークスを底力重視と見立てれば、桜花賞馬の産駒の勝ち上がり率が高めに出て、オークス馬の産駒の重賞勝馬率が高めである、という上記の傾向自体は感覚的に合点の行くところではないかと思われる。

さて本題である、桜花賞馬・オークス馬の産駒成績が優秀と言えるかについては(この問題自体が漠然としているので明確な答えは困難だが)、両論ありそうなところ。目安としては、ディープインパクト産駒の勝ち上がり率が65%で、重賞勝馬が11頭に1頭、GⅠ勝馬が34頭に1頭程度と、上記の数値と水準的に近いレベルにあるのが参考になるだろうか。つまりそれは非凡な数値と言えるわけだが、桜花賞馬・オークス馬の配合種牡馬も概ね一流揃いであることを踏まえる必要もある。競走馬として超一流の牝馬は繁殖牝馬として超一流か、という問いに対する答えは、強くうなずけるもの、とまでは言い難いように感じられるがどうだろうか。

むしろ、競走馬として卓越し、かつ、繫殖牝馬としても卓越した牝馬を「名牝」と称するとして、それがどのくらい稀な存在なのか、を考える方がイメージを共有しやすいかもしれない。ここで、表に登場した桜花賞馬・オークス馬の中で、母馬として複数のGⅠ馬を輩出した牝馬、を基準として篩(ふるい)にかけて、以下の名牝4頭を数えてみる。今更という感が強いが、改めてプロフィールに触れると下記の通り。数え方にもよるだろうが、ここで言う名牝は5、6年に1頭程度しか出現しておらず、それは率にすれば数万頭に1頭程度の極小の値に過ぎないことになる(この率は現在の学生世代が東大に合格する率の1/100に近い)。

注)その他の牝馬G1競走を見渡すと、エリザベス女王杯の勝馬フサイチパンドラからアーモンドアイ、同じくアドマイヤグルーヴからドゥラメンテ、阪神3歳牝馬Sの勝馬ビワハイジからブエナビスタなどが出ているが、ここで定義した名牝(繫殖牝馬としてGⅠ馬を複数輩出)の該当例はなかった。

アグネスフローラ 1987年生

父ロイヤルスキー 母アグネスレディー(その父リマンド)
通算成績6戦5勝 主な勝鞍:G1桜花賞
・母アグネスレディーはオークス馬
・大外20番枠に入ったオークスで2着に敗れたのが唯一の敗戦で、脚部不安により同レースを最後に引退

(産駒の中央戦績)
初仔 アグネスタカオー(牡、父サンデーサイレンス)3勝
2番仔 アグネスセブンオー(牡、父トニービン)未出走
3番仔 アグネスセレーネー(牝、父トニービン)未勝利
4番仔 アグネストレジャー(牡、父サンデーサイレンス)4勝
5番仔 アグネスラック(牝、父クロフネ)3勝
6番仔 アグネスフライト(牡、父サンデーサイレンス)4勝、G1ダービー・G2京都新聞杯
7番仔 アグネスタキオン(牡、父サンデーサイレンス)4勝、G1皐月賞・G2弥生賞・G3ラジオたんぱ杯
8番仔 アグネスプロトン(牡、父エリシオ)2勝
9番仔 (牡、父エリシオ)未出走
10番仔 アグネスサージャン(牡、父サンデーサイレンス)1勝
11番仔 アグネスフリーダム(牡、父ダンスインザダーク)未勝利

ベガ 1990年生

父トニービン 母アンティックヴァリュー(その父Northern Dancer)
通算成績9戦4勝 主な勝鞍:G1桜花賞、G1オークス
・脚部不安、体質の弱さを抱えた中で二冠を達成

(産駒の中央戦績)
初仔 アドマイヤベガ(牡、父サンデーサイレンス)4勝、G1ダービー・G2京都新聞杯・G3ラジオたんぱ杯
2番仔 アドマイヤボス(牡、父サンデーサイレンス)2勝、G2セントライト記念
3番仔 アドマイヤドン(牡、父ティンバーカントリー)10勝(交流重賞5勝含む)、G1朝日杯FS・G1フェブラリーS・G1JBCクラシック×3など
4番仔 キャプテンベガ(牡、父サンデーサイレンス)5勝
5番仔 ヒストリックスター(牝、父ファルブラヴ)未出走 ※桜花賞馬ハープスターの母

エアグルーヴ 1993年生

父トニービン 母ダイナカール(その父ノーザンテースト)
通算成績19戦9勝 主な勝鞍:G1オークス、G1天皇賞(秋)、G2札幌記念×2、G2大阪杯、G3マーメイドS、G3チューリップ賞
・母ダイナカールはオークス馬
・掲示板を外したのは秋華賞(10着)のみ

(産駒の中央戦績)
初仔 アドマイヤグルーヴ(牝、父サンデーサイレンス)8勝、G1エリザベス女王杯×2・G2阪神牝馬S・G2ローズS・G3マーメイドS ※二冠馬ドゥラメンテの母
2番仔 イントゥザグルーヴ(牝、父サンデーサイレンス)4勝
3番仔 サムライハート(牡、父サンデーサイレンス)3勝
4番仔 ソニックグルーヴ(牝、父フレンチデピュティ)未出走
5番仔 ザサンデーフサイチ(牡、父ダンスインザダーク)3勝
6番仔 ポルトフィーノ(牝、父クロフネ)3勝
7番仔 フォゲッタブル(牡、父ダンスインザダーク)4勝、G2ステイヤーズS・G3ダイヤモンドS
8番仔 ルーラーシップ(牡、父キングカメハメハ)8勝、G1香港QEⅡC・G2AJCC・G2金鯱賞・G2日経新春杯・G3鳴尾記念
9番仔 グルヴェイグ(牝、父ディープインパクト)5勝、G3マーメイドS
10番仔 ラストグルーヴ(牝、父ディープインパクト)1勝
11番仔 ショパン(牡、父キングカメハメハ)3勝

シーザリオ 2002年生

父スペシャルウィーク 母キロフプリミエール(その父Sadler’s Wells)
通算成績6戦5勝 主な勝鞍:G1オークス、G1アメリカンオークス、G3フラワーC
・米G1アメリカンオークスをレコード勝ちし、父内国産の日本調教馬として海外G1制覇第一号に
・唯一の敗戦は桜花賞のアタマ差2着(1着ラインクラフト)

(産駒の中央戦績)
初仔 トゥエルフスナイト(牡、父キングカメハメハ)1勝
2番仔 ヴァイオラ(牝、父キングカメハメハ)未出走
3番仔 エピファネイア(牡、父シンボリクリスエス)6勝、G1ジャパンC・G1菊花賞・G2神戸新聞杯・G3ラジオNikkei杯
4番仔 ロザリンド(牝、父シンボリクリスエス)未勝利
5番仔 クローディオ(牡、父ハービンジャー)1勝
6番仔 リオンディーズ(牡、父キングカメハメハ)2勝、G1朝日杯FS
7番仔 グローブシアター(牡、父キングカメハメハ)5勝
8番仔 シーリア(牝、父キングカメハメハ)2勝
9番仔 サートゥルナーリア(牡、父ロードカナロア)6勝、G1皐月賞・G1ホープフルS・G2金鯱賞・G2神戸新聞杯
10番仔 ファーストフォリオ(牝、父キングカメハメハ)4勝
11番仔 ルペルカーリア(牡、父モーリス)1勝
12番仔 (牝、父ロードカナロア)

桜花賞馬出走産駒数勝馬数重賞勝馬(太字はGⅠ馬)
2022スターズオンアース
2021ソダシ
2020デアリングタクト
2019グランアレグリア
2018アーモンドアイ
2017レーヌミノル
2016ジュエラー11
2015レッツゴードンキ
2014ハープスター21
2013アユサン32
2012ジェンティルドンナ32
2011マルセリーナ32ラストドラフト
2010アパパネ44アカイトリノムスメ
2009ブエナビスタ44
2008レジネッタ75
2007ダイワスカーレット96
2006キストゥヘヴン83タイムトゥヘヴン
2005ラインクラフト
2004ダンスインザムード117ダンスファンタジア
2003スティルインラブ10
2002アローキャリー22
2001テイエムオーシャン92
2000チアズグレイス84
1999プリモディーネ63
1998ファレノプシス117
1997キョウエイマーチ43
1996ファイトガリバー75
1995ワンダーパヒューム
1994オグリローマン83
1993ベガ44アドマイヤベガ、アドマイヤボス、アドマイヤドン
1992ニシノフラワー97
1991シスタートウショウ64
1990アグネスフローラ75アグネスフライトアグネスタキオン
1989シャダイカグラ42
1988アラホウトク75
1987マックスビューティ65
1986メジロラモーヌ125

オークス馬出走産駒数勝馬数重賞勝馬(太字はGⅠ馬)
2021ユーバーレーベン
2020デアリングタクト
2019ラヴズオンリーユー
2018アーモンドアイ
2017ソウルスターリング
2016シンハライト10
2015ミッキークイーン10
2014ヌーヴォレコルト11
2013メイショウマンボ21
2012ジェンティルドンナ32
2011エリンコート52
2010アパパネ(同着)44アカイトリノムスメ
2010サンテミリオン(同着)50
2009ブエナビスタ44
2008トールポピー10
2007ローブデコルテ22
2006カワカミプリンセス81
2005シーザリオ109エピファネイアリオンディーズサートゥルナーリア
2004ダイワエルシエーロ42
2003スティルインラブ10
2002スマイルトゥモロー93
2001レディパステル82
2000シルクプリマドンナ88
1999ウメノファイバー134
1998エリモエクセル113
1997メジロドーベル76
1996エアグルーヴ1010アドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル、ルーラーシップ、グルヴェイグ
1995ダンスパートナー96フェデラリスト
1994チョウカイキャロル74
1993ベガ44アドマイヤベガ、アドマイヤボス、アドマイヤドン
1992アドラーブル87エモシオン
1991イソノルーブル94
1990エイシンサニー85
1989ライトカラー10
1988コスモドリーム92
1987マックスビューティ65
1986メジロラモーヌ125