コラム・海外種牡馬特集【7】豪州とニュージーランドの種牡馬現況を俯瞰する

前回に続き今回も南半球の父系別の産駒活躍状況に触れていく。まず、前回のまとめとしてオーストラリアの注目種牡馬を取り上げ、次にニュージーランドの父系別の産駒活躍状況を簡単にまとめている。おおまかな傾向、トレンドを掴む用途でお読み頂ければ幸いである。

※各データはニュージーランドのArion Pedigreesのものを参照している。

1・オーストラリアの注目種牡馬とは?

・前回の続きになるが、昨季(2020-2021シーズン)の獲得賞金上位50頭の種牡馬のデータより、勝利頭数を出走頭数で割った勝利頭数率と、ステークス勝ち馬頭数を出走頭数で割ったSW(ステークスウイナー)輩出率を物差しに、注目種牡馬を抽出していく。

・まず、勝利頭数率とSW輩出率のTOP10を以下に示す。

勝利頭数率(勝利頭数÷出走頭数)TOP10

 1・Sacred Falls
 48頭出走-29頭勝利:60.42%

 2・I Am Invincible
 358頭出走-208頭勝利:58.10%

 3・Zoustar
 247頭出走-142頭勝利:57.49%

 4・Hallowed Crown
 80頭出走-44頭勝利:55.00%

 5・Tavistock
 194頭出走-104頭勝利:53.61%

 6・Toronado
 166頭出走-88頭勝利:53.01%

 7・Deep Field
 226頭出走-119頭勝利:52.65%

 8・Shamus Award
 171頭出走-89頭勝利:52.05%

 9・Spirit of Boom
 221頭出走-115頭勝利:52.04%

 10・Dream Ahead
 173頭出走-90頭勝利:52.02%

SW輩出率(ステークス勝ち馬頭数÷出走頭数)TOP10

 1・Zed
 19頭出走-SW2頭:10.53%

 2・Ocean Park
 95頭出走-SW7頭:7.37%

 3・Sacred Falls
 48頭出走-SW3頭:6.25%

 4・Fastnet Rock
 228頭出走-SW14頭:6.14%

 5・Shamus Award
 171頭出走-SW10頭:5.85%

 6・Tavistock
 194頭出走-SW10頭:5.15%

 7・Zoustar
 247頭出走-SW12頭:4.86%

 8・Teofilo
 62頭出走-SW3頭:4.84%

 9・So You Think
 266頭出走-SW12頭:4.51%

 10・Lope de Vega
 92頭出走-SW4頭:4.35%

2つのランキングで共にTOP10入りした種牡馬4頭

・共にTOP10に入っている種牡馬は以下の4頭。Sacred Fallsは出走頭数が48と少ないため、Zoustar、Tavistock、Shamus Awardの3頭が注目種牡馬となるが、年齢的に若い2頭、Zoustar(2010年産)とShamus Award(2010年産)の2頭を本稿では注目種牡馬として取り上げる。

 Sacred Falls
 勝利頭数率:1位、SW輩出率:3位

 Zoustar
 勝利頭数率:3位、SW輩出率:7位

 Tavistock
 勝利頭数率:5位、SW輩出率:6位

 Shamus Award
 勝利頭数率:8位、SW輩出率:5位

2・注目種牡馬①Zoustar

・2010年豪州産のNorthern Meteor産駒。G1-クールモアスタッドS、G1-ゴールデンローズSの2つのG1を含む重賞4勝。父系はFairy King II系で、オーストラリアで主流のDanzig→デインヒル系ではない。昨季(2020-2021シーズン)の獲得賞金ランキング7位。

 昨季(2020-2021シーズン)の産駒成績
  247頭出走-142頭勝利(57.49%)-SW12頭(4.86%)

Northern Dancer
└Fairy King II
 └Encosta de Lago
  └Northern Meteor
   └Zoustar

・2015年産の初年度産駒(現6歳・当時の種付料4万4000豪ドル)からSunlight(ウィリアムレイドS、ニューマーケットH、クールモアスタッドS)、Zoutori(ニューマーケットH)、Mizzy(カンタベリーS)の3頭のG1馬が出現。2018年11/3の3歳限定G1-クールモアスタッドS(t1200m)では、1着:Sunlight、2着:Zousain、3着:Lean Mean Machineと、Zoustar産駒が1~3着を独占する快挙達成。昨年3/6のG1-ニューマーケットHも1着:Zoutori、2着:Indian PacificでZoustar産駒のワンツーと、大舞台でインパクト大な活躍を産駒が見せている状況。

・これらの優良産駒の活躍を受けて種付料は初年度の4万4000豪ドルが今季は15万4000豪ドル。繁殖牝馬のレベルが急激に上がったのがおそらく2019年以降のため、今後出てくる産駒に大きな期待がかかっている現況。

・尚、JRAでは2頭のZoustar産駒が走っているが、ドーンオブアネラ(2016年産・牡馬)が中央未勝利後に移籍した地方(名古屋、笠松)で3勝したのが最高成績。もう1頭はビッグレッドファームの持ち馬、ゴールデンベリル(2019年産・牝馬)。今年3/5の未勝利戦(中山芝1600)でデビューし6着。

3・注目種牡馬②Shamus Award

・2010年豪州産のスニッツエル産駒。G1-コックスプレート、G1-オーストアリアンギニーの勝ち馬。父系はオーストラリアで一大勢力を築いているDanzig→デインヒル系。昨季(2020-2021シーズン)の獲得賞金ランキング13位。

 昨季(2020-2021シーズン)の産駒成績
  171頭出走-89頭勝利(52.05%)-SW10頭(5.85%)

Northern Dancer
└Danzig
 └デインヒル
  └Redoute’s Choice
   └スニッツエル
    └Shamus Award

・2015年産の初年度産駒(現6歳・当時の種付料2万7500豪ドル)からMr Quickie(トゥーラックH、クイーンズランドダービー)、2016年産の2ndクロップ(現5歳・当時の種付料2万7500豪ドル)からIncentivise(コーフィールドC、ターンブルS、マカイビーディーヴァS)、2017年産の3rdクロップ(現4歳・当時の種付料2万7500豪ドル)からDuais(オーストラリアンC、タンクレッドS、クイーンズランドオークス)、Media Award(オーストラリアンオークス)、2018年産の4thクロップ(現3歳・当時の種付料2万2000豪ドル)からEl Patroness(オーストラリアンオークス)を輩出。尚、Shamus Award産駒はまだ日本では走っていない。

4世代連続で通算5頭のG1馬を輩出、というのはかなりのハイペースで、SW輩出率は同期のZoustarを凌駕。Zoustarの今季の種付料15万4000豪ドルに対し、本馬は3万3000豪ドル。明らかにコストパフォーマンスが高い事もあり、オーストラリアで2番目に多い216頭の種付け頭数を誇る。ただ、先日4/15に発表された来季の種付料は8万8000豪ドルとなり、産駒実績に相応しい額となっている。

4・ニュージーランドの種牡馬現況について

・昨季(2020-2021シーズン)のニュージーランドでの父系別の産駒活躍状況を簡単にまとめていく。まず、獲得賞金上位10頭は以下の通り。

順位種牡馬出走頭数勝利頭数SW頭数獲得賞金(NZドル)
1Savabeel12156112,987,392
2Fastnet Rock16851,962,787
3Per Incanto1115451,886,712
4Sacred Falls712521,536,588
5Tavistock1275321,525,041
6Ocean Park963531,431,763
7Showcasing1284361,397,112
8Darci Brahma883531,294,655
9Zed1083521,231,168
10Swiss Ace1044401,096,683

・次にこの10頭の勝利頭数率(勝利頭数÷出走頭数)、SW輩出率(ステークス勝ち馬頭数÷出走頭数)を示す。順位を見るとFastnet Rockが勝利頭数率、SW輩出率ともに1位だが、出走頭数が16と少なく参考記録といったところで、実質的にはチャンピオンサイアーのSavabeelが貫禄を示していると見て取れる

種牡馬勝利頭数率順位SW輩出率順位
Savabeel46.28%39.09%2
Fastnet Rock50.00%131.25%1
Per Incanto48.65%24.50%4
Sacred Falls35.21%82.82%7
Tavistock41.73%51.57%9
Ocean Park36.46%73.13%6
Showcasing33.59%94.69%3
Darci Brahma39.77%63.41%5
Zed32.41%101.85%8
Swiss Ace42.31%40.00%10

・ちなみにSavabeelは昨年3/20のG1-ニュージーランドオークスを制したAmarelinhaを輩出。Fastnet Rockは昨年3/7のG1-ニュージーランドダービーを制したRocket Spadeを輩出。

・次に10頭の父系をまとめる。Northern Dancerを始祖とする系統が6頭、Sir Tristramを始祖とする系統が2頭、Mr. Prospectorを始祖とする系統が2頭となる。

Northern Dancer
└Danzig
 └デインヒル
  └Fastnet Rock【賞金ランク2位
  └Darci Brahma【賞金ランク8位
 └Green Desert
  └Oasis Dream
   └Showcasing【賞金ランク7位
└Nureyev
 └スピニングワールド
  └Thorn Park
   └Ocean Park【賞金ランク6位
└トライマイベスト
 └ラストタイクーン
  └O’Reilly
   └Sacred Falls【賞金ランク4位
└Sadler’s Wells
 └Montjeu
  └Tavistock【賞金ランク5位

Mr. Prospector
└Machiavellian
 └Street Cry
  └Per Incanto【賞金ランク3位
└Seeking the Gold
 └Secret Savings
  └Swiss Ace【賞金ランク10位

Nearco
└Royal Charger
 └Turn-to
  └Sir Gaylord
   └Sir Ivor
    └Sir Tristram
     └Zabeel
      └Savabeel【賞金ランク1位
      └Zed【賞金ランク9位

※過去記事