コラム・新種牡馬評論【8】ジオグリフと母・アロマティコについて

今回は先日の皐月賞を制したジオグリフの父、ドレフォンについて改めて取り上げる。産駒の圧倒的なダート戦績については以前も当コラムで触れているが、ジオグリフが皐月賞を制覇したことで、今回は芝での活躍の背景について産駒の母に着目し、目下の代表産駒であるジオグリフとデシエルトについて主に触れていく。

1・ドレフォン産駒の母について(現役時の戦績、出生順)

・先週末までに勝ち上がったドレフォン産駒48頭の母の現役時代の戦績と産駒戦績について掘り下げていく。ここでの勝利数は中央+地方+海外でのもので単純に勝利数を加算したものになり、頭数の横に併記した馬名は2勝以上あげているドレフォン産駒の馬名になる。ジオグリフの母は6勝、デシエルトの母は5勝と、この中では上位の勝利数を母が残していることが分かる。

7勝:1頭
6勝:1頭(ジオグリフの母)
5勝:2頭(デシエルトの母)
4勝:5頭(ペプチドヤマト、タイセイドレフォンの母)
3勝:9頭(テーオードレフォンの母)
2勝:11頭
1勝:7頭(カワキタレブリー、セイルオンセイラーの母)
未勝利、未出走:12頭(コンシリエーレ、サーマルウインドの母)

・次に何番仔の産駒が勝ち上がっているのかをまとめる。尚、頭数の横に併記した馬名は2勝以上あげている産駒の馬名になる。ジオグリフとデシエルトは共に4番仔。初仔で現在2勝以上している産駒はいないことも分かる。

 初仔:6頭
 2番仔:7頭(カワキタレブリー)
 3番仔:8頭
 4番仔:7頭(ジオグリフデシエルト)
 5番仔:4頭(サーマルウインド)
 6番仔:5頭(ペプチドヤマト、タイセイドレフォン、コンシリエーレ)
 7番仔:5頭(セイルオンセイラー)
 8番仔:2頭
 9番仔:2頭(テーオードレフォン)
 12番仔:1頭
 15番仔:1頭

・尚、出生順については以前、ブラッドホース誌が1998年~2008年の北米の繁殖牝馬の産駒競走成績をまとめたデータを示しており、それによると全繁殖牝馬の出生順別の重賞勝ち馬輩出率は以下のようになっている。このデータによると、北米では初仔の成績は良くなく、2番仔、3番仔、4番仔辺りが最も重賞勝ち馬を輩出してきたことが分かり、以後は多少の上下動はあるが、緩やかに数字を落としていくが、初仔のそれよりは高い数字で推移していくことが分かる。この出生順についての北米の事例を見ると、皐月賞馬・ジオグリフ、リステッド勝ちのデシエルトが共に4番仔というのは非常にしっくり来るだろう。

 初仔:1.50%
 2番仔:1.99%
 3番仔:2.02%
 4番仔:2.41%
 5番仔:1.85%
 6番仔:1.78%
 7番仔:1.53%
 8番仔:1.70%
 9番仔:1.59%
 10番仔:1.61%
 11番仔:1.66%
 12番仔:1.81%
 13番仔:1.82%

2・現役時に優れた競走成績を残していた母について

・①重賞・交流重賞勝ち、②重賞・交流重賞入着、③OP勝ちの優れた戦績を現役時代に残した母がどれくらいいるのか、該当馬の産駒を含めて以下にまとめる。重複した戦績を残している場合は①>②>③の順で繰り上げて組み入れている。尚、ジオグリフ、デシエルトの母は②に入る。

①重賞・交流重賞勝ち:4頭

ユキチャン(byクロフネ:関東オークス、クイーン賞、TCK女王盃)
ハイアムズビーチ1勝()、6番仔
・ユキチャンの産駒はトータルで中央芝3勝、中央ダート2勝。

レディバラード(byUnbridled:クイーン賞、TCK女王盃)
セレッソ1勝(ダート)、15番仔
・レディバラードの産駒に重賞2勝のダノンバラード(父・ディープインパクト、4番仔)、京都新聞杯2着のロードアリエス(父・シンボリクリスエス、2番仔)がおり、産駒はトータルで中央芝10勝、中央ダート7勝。高齢での出産となったドレフォンとの産駒もしっかり勝ち上がっているのは流石と言えるだろう。

カラフルデイズ(byフジキセキ:関東オークス)
カラフルキューブ1勝(ダート)、3番仔
・カラフルデイズの産駒はトータルで中央芝で2勝、中央ダートで1勝。カラフルキューブが中央ダートで勝った初めての産駒になる。

レッドアゲート(byマンハッタンカフェ:フローラS)
スピードソルジャー1勝(ダート)、8番仔
・レッドアゲートの産駒に京都新聞杯の勝ち馬・レッドジェニアル(父・キングカメハメハ、5番仔)がおり、産駒はトータルで中央芝2勝、中央ダート5勝、中央障害4勝。スピードソルジャーは重賞勝ち馬の下になるが、芝で4戦使われて未勝利となり、ダート替りの5戦目で勝ち上がっている。

②重賞・交流重賞入着:5頭

・該当する5頭の繁殖牝馬の内、3頭は中央芝での重賞入着馬、2頭は地方・海外でのダート重賞入着馬。このカテゴリーから共に4番仔のジオグリフ、デシエルトが出ており、目下のドレフォンの種牡馬としての成功を支える勢力となっている。

アロマティコ(byキングカメハメハ:巴賞1着、クイーンS2着、秋華賞3着、エリザベス女王杯3着、マーメイドS3着)
ジオグリフ3勝(G1-皐月賞G3-札幌2歳S)、4番仔

・アロマティコの産駒はトータルで中央芝8勝。初仔のコパカティ(父・ハービンジャー)が中央芝2勝、3番仔のアルビージャ(父・モーリス)が中央芝3勝。2番仔のエピファネイア牝駒は未勝利に終わったものの総じてコンスタントに芝で走る産駒を輩出してきた繁殖牝馬。

・AEIという物差しがあるが、これを算出する際に「全出走馬収得賞金」÷「総出走頭数」を出す必要がある。この数値を中央競馬で求めると、1勝+勝ち上がった後の何度かの入着、が大体の目安になる。この観点でアロマティコの繁殖成績を改めて見直すと、「中央2勝、未勝利、中央3勝」は「中央1勝、中央1勝、中央1勝」を水準レベルとすると、水準以上のものと言える。

・先の北米での事例を踏まえると、最も重賞勝ち馬が出やすいと思われる4番仔で、なおかつ母もそれまでの産駒も芝で活躍してきた裏付けがある中から、大物が出たということになる。こうした繁殖牝馬との間の産駒からは今後も芝で活躍するドレフォン産駒が出てくる可能性があると言えるだろうか。

・ジオグリフとデシエルトは共にBMSがキングカメハメハになるが、キングカメハメハは2年連続でサラ総合BMSランキング首位で、今年も現時点で首位。ドレフォン×キングカメハメハ牝馬の産駒は9頭おり、8頭がデビュー。この内、5頭が勝ち上がっており、勝ち上がり率は62.5%。ドレフォン産駒全体の勝ち上がり率は42.9%なので、母父・キングカメハメハの優秀性が数字に表れている。キングカメハメハの持つ芝・ダート兼用の適性が大きいと思われ、5頭中4頭はダートでの勝ち上がり。芝で勝利したのはジオグリフとデシエルトの2頭のみとなっている。

アドマイヤセプター(byキングカメハメハ:京阪杯2着、スワンS3着、フェアリーS3着、札幌2歳S3着)
デシエルト3勝(L-若葉Sダート2勝)、4番仔

・アドマイヤセプターの産駒に京都牝馬S2着、京成杯2着のスカイグルーヴ(父・エピファネイア、2番仔)、L-クロッカスS2着のレガトゥス(父・モーリス、3番仔)がおり、産駒はトータルで中央芝6勝、中央ダート2勝。初仔のハービンジャー牝駒は未勝利に終わったものの、重賞入着馬、リステッド入着馬を輩出してきた優れた繁殖牝馬。

・アドマイヤセプターはドゥラメンテ(5番仔)の全姉で母がアドマイヤグルーヴ(の2番仔)、祖母がエアグルーヴ。父(キングカメハメハ)、母父(サンデーサイレンス)、母母父(トニービン)、母母母父(ノーザンテースト)、母母母母父(ガーサント)が全てチャンピオンサイアーという馬。いつ大物が出てもおかしくない血統背景(※デシエルトのセレクトセールでの取引価格は2億7000万円)で、4番仔という大きな期待がかかる出生順の産駒からリステッド勝ち馬が出ている。

・ジオグリフを産んだアロマティコと状況は似ており、母が現役時に中央芝で一定レベル以上の競走成績を残していたこと母がそれまでに産んだ産駒で中央芝で一定レベル以上の活躍をしている馬がいること母が産駒出生時に若いこと、は今後のドレフォン産駒の芝での活躍馬輩出を占う上で意味のある要素となるのかもしれない。ただ、これは至極当然のこととも言え、ジオグリフ、デシエルトは「例外」なのか、今後こうした競走実績のある母との配合が増え、さらに大物を出してくるのか、今後こうした条件下以外からも大物を出してくるのか、についてはもう少し事例を見てみないと何とも言えないだろう。条件の揃った中から結果を出した、結果を出せるポテンシャルは示した、というのが正確な物言いになろうか。

・アドマイヤセプターに関してはもう1つ、先のブラッドホースの調査で興味深いデータがあり、「重賞優勝牝馬を母とする繁殖牝馬の産駒競走成績」について触れる。アドマイヤセプターの母はアドマイヤグルーヴなので、「重賞優勝牝馬を母とする繁殖牝馬」に該当するが、この場合、北米では重賞勝ち馬輩出率が以下のように跳ね上がっていることが分かっている。産駒からみて祖母が重賞勝ち馬、というのはかなり価値が高いことは直感的に分かることだろうが、数値的にどれくらいの価値があるのか、はなかなか分かりずらい内容ではなかろうか。デシエルトは現在はリステッド勝ち馬というカテゴリーに入るが、今後、重賞勝ちの可能性は他の産駒と比べて数倍は高いのではないかということがデータからは言える。

※重賞優勝牝馬を母とする繁殖牝馬の産駒競走成績

 初仔:重賞勝馬輩出率・6.04%(※全繁殖牝馬の率は1.50%)
 2番仔:重賞勝馬輩出率・6.92%(※全繁殖牝馬の率は1.99%)
 3番仔:重賞勝馬輩出率・7.60%(※全繁殖牝馬の率は2.02%)
 4番仔:重賞勝馬輩出率・5.88%(※全繁殖牝馬の率は2.41%)
 5番仔:重賞勝馬輩出率・5.13%(※全繁殖牝馬の率は1.85%)
 6番仔:重賞勝馬輩出率・5.53%(※全繁殖牝馬の率は1.78%)
 7番仔:重賞勝馬輩出率・3.90%(※全繁殖牝馬の率は1.53%)
 8番仔:重賞勝馬輩出率・3.98%(※全繁殖牝馬の率は1.70%)
 9番仔:重賞勝馬輩出率・5.69%(※全繁殖牝馬の率は1.59%)
 10番仔:重賞勝馬輩出率・2.47%(※全繁殖牝馬の率は1.61%)
 11番仔:重賞勝馬輩出率・3.96%(※全繁殖牝馬の率は1.66%)
 12番仔:重賞勝馬輩出率・7.81%(※全繁殖牝馬の率は1.81%)
 13番仔:重賞勝馬輩出率・4.00%(※全繁殖牝馬の率は1.82%)

・さらに、「重賞優勝牝馬の2番仔、3番仔として産まれた繁殖牝馬」は、2番仔(アドマイヤセプターが該当)が6.92%、3番仔が7.6%で重賞勝ち馬を送り出している、というデータもあり、重賞を勝った牝馬は孫の代にまで強い影響力を及ぼしていることが分かる。ちなみにデシエルトの祖母・アドマイヤグルーヴは曽祖母・エアグルーヴの初仔、エアグルーヴはダイナカールの「4番仔」になる。ちなみにダイナカールの3番仔は牝馬のカーリーエンジェルで、この馬は母としてエガオヲミセテ、オレハマッテルゼ、フラアンジェリコの3頭の重賞勝ち馬を出し、母として成功。北米での「7.6%」の実績に説得力を与える実例と言える。

ケアレスウィスパー(byフジキセキ:関東オークス2着)
スペクトログラム1勝(ダート)、9番仔

・ケアレスウィスパーの産駒に豪G1-アンダーウッドS2着、G1-香港ヴァーズ3着の2回のG1入着と京都大賞典2着、阪神大賞典3着、神戸新聞杯3着と重賞入着を果たしたトーセンバジル(父・ハービンジャー、2番仔)がおり、産駒はトータルで中央芝5勝、中央ダート3勝。

グローリアスデイズ(byサンデーサイレンス:フローラS2着、ローズS2着)
スノーグレース1勝(ダート)、12番仔

・グローリアスデイズの産駒はトータルで中央芝4勝、中央ダート2勝、中央障害1勝。

ヨナグッチ(byYonaguska:スピナウェイS3着)
ストームゾーン1勝(ダート)、5番仔

・ヨナグッチの産駒はストームゾーンが出るまでは中央未勝利。

③OP勝ち:1頭

・ペプチドルビーは芝とダートのOP特別を各1勝した馬だが、ダートのOP特別で3着2回、準OP勝ちもダートという馬。

ペプチドルビー(byコロナドズクエスト:すばるS1着、すずらん賞1着)
ペプチドヤマト2勝(ダート)

・ペプチドルビーの産駒はトータルで中央芝1勝、中央ダート5勝。

3・他の新種牡馬産駒の母について

キタサンブラック、シルバーステート産駒の重賞勝ち馬の母はどうなっているのか。イクイノックス、ウォーターナビレラと明日の京都新聞杯に出走するキタサンブラック産駒・ブラックブロッサムの事例を取り上げる。

シャトーブランシュ(byキングヘイロー:マーメイドS1着、ローズS2着)
イクイノックス(父・キタサンブラック):中央芝2勝(G2-東京スポーツ杯2歳S)、3番仔

・シャトーブランシュの産駒にG3-ラジオNIKKEI賞の勝ち馬・ヴァイスメテオール(父・キングカメハメハ、2番仔)がいる。初仔のミスビアンカ(父・ロードカナロア)は中央芝1勝、中央ダート2勝の現役馬。イクイノックスは重賞勝ち馬の母から産まれた3番仔で、先に示した「母が現役時に中央芝で一定レベル以上の競走成績を残していたこと+母がそれまでに産んだ産駒で中央芝で一定レベル以上の活躍をしている馬がいること+母が産駒出生時に若いこと」の条件を全て満たしている馬。

・シャトーブランシュの母、イクイノックスの祖母・ブランジェリーは中央芝2勝。ブランジェリーの母、イクイノックスの曽祖母・メゾンブランシュは中央芝4勝、中央ダート1勝、G3-クイーンS3着。

ポーレン(byOrpen:愛G3-パークエクスプレスS1着)
ブラックブロッサム(父・キタサンブラック):中央芝2勝6番仔

・ポーレンの産駒にG3-フェアリーS2着のポレンティア(父・ハーツクライ、5番仔)がいる。明日の京都新聞杯で有力視されているブラックブロッサムは「母が現役時に中央芝で一定レベル以上の競走成績を残していたこと+母がそれまでに産んだ産駒で中央芝で一定レベル以上の活躍をしている馬がいること+母が産駒出生時に若いこと」の条件を全て満たしており(母は中央ではなく海外での重賞勝ちだが)、順当なら明日勝ってダービーへ駒を進めることになりそうだがどうなるか。

シャイニングサヤカ(byキングヘイロー:中央未勝利、地方3勝・岩手重賞ビューチフルドリーマーC1着)
ウォーターナビレラ(父・シルバーステート):中央芝3勝(G3-ファンタジーS)、5番仔

・シャイニングサヤカの産駒にJpn2-兵庫ジュニアグランプリ3着のソイカウボーイ(父・トビーズコーナー、初仔)がいる。先に示した「母が現役時に中央芝で一定レベル以上の競走成績を残していたこと+母がそれまでに産んだ産駒で中央芝で一定レベル以上の活躍をしている馬がいること+母が産駒出生時に若いこと」の3条件の内、母が産駒出生時に若いこと、は満たしているが残り2つは満たしていない。ただ、「中央」を「地方」に置き換えれば条件は満たしているとも言え、こうした条件下から中央重賞勝ち馬、桜花賞2着馬をしっかりと送り出した父・シルバーステートの種牡馬としての能力は高いと判定出来る上、3条件を満たす機会に恵まれればしっかりと成果を出してくる可能性が高い、と予想出来るのではなかろうか。

4・最後に

・今回はブラッドホースの調査を下敷きにしてきたが、当然例外もあることは踏まえた上で、①母が現役時に中央芝で一定レベル以上の競走成績を残していたこと②母がそれまでに産んだ産駒で中央芝で一定レベル以上の活躍をしている馬がいること③母が産駒出生時に若いこと、の3条件を満たした場合、産駒が成功する可能性が若干アップするのは確かだと思われる。

・そうした好条件下でどれだけの成果を出せるか、は種牡馬にとって大変重要な局面でそこで成果を出せなかった場合、出せない事が多かった場合は、決定力不足の烙印を押されて別の種牡馬にその座を譲っていくことになるのだろう。その点で言えば、まだ始まったばかりではあるがドレフォン、キタサンブラックはチャンスを活かしている、それなりの決定力を見せていると言え、シルバーステートも健闘していると言える。

・ただ今回はあくまでも実際に勝ち上がっている馬を対象にして調査しており、実際に3条件を満たす産駒がどれくらいいて、どれくらい成果が出ているのか、どれくらい成果を出せていないのか、を精査しないと正味なところは正確には分からないのも確かだろう。ただ、ここまでに結果を出した産駒の背景を探る事で、3条件を特に満たしていないところからはまだ大物は出ていない事を明らかにする事にはそれなりの意味はあると言えないだろうか。今後も折に触れ同様の視点で種牡馬にとっての勝負どころでの決定力については定点観測していくつもりである。

※過去記事