ランダムに注目種牡馬を取り上げるコラムの初回として、日本再供用後の産駒(現2歳)が大活躍しているダノンバラードを取り上げる。多くのディープインパクト産駒の種牡馬の中で流浪の種牡馬生活を送ってきたキャリアは異色そのもので、ここまでの2歳戦での活躍で今後、地位をあげていく可能性を感じさせている現況は注目に値する。
※用いたデータは7/10終了時点の中央でのものになる。
血統と現役時代
・2008年産。父はディープインパクトでディープインパクトの初年度産駒。母のレディバラードは1997年愛国産のUnbridled産駒。1997年のキーンランド11月Mixedセールにて、31万米ドルにて中村和夫氏が購買した馬。現役時は19戦7勝、G3-TCK女王盃、G3-クイーン賞の交流重賞2勝をあげた活躍馬で半弟にG1馬・Sligo Bayがいる血統馬。ダノンバラードは4番仔でHaloの3×3のクロスを持つ馬。近親にGlorious Song(エクリプス賞最優秀古牝馬、カナダ・ソヴリン賞年度代表馬)、シングスピール(エクリプス賞最優秀芝牡馬)、Devil’s Bag(エクリプス賞最優秀2歳牡馬)の3頭のチャンピオンホースの他、ダノンシャンティ、Rahy、Campanologist(G1・4勝)がいる。
・ダノンバラードは現役時、2歳時にG3-ラジオNIKKEI杯2歳Sを勝ち、ディープインパクト産駒初の重賞勝利をあげる(鞍上は武豊)。その後、皐月賞でオルフェーヴルの3着など重賞入着級の活躍をし、5歳時ににG2-AJCCで重賞2勝目、同年の宝塚記念でゴールドシップの2着と健闘し、6歳4月のアンタレスS14着を最後に引退。
日本→イタリア→英国と流浪の種牡馬生活を送る
・2015年に7歳で日高スタリオンステーションにてスタッドイン。種付料は受胎条件で30万円になり、41頭に種付けされ、25頭(血統登録頭数)の初年度産駒が翌年誕生。2016年は日高スタリオンステーションの閉鎖によりレックススタッドで供用されるも、種付頭数は12頭、血統登録頭数は6頭に留まる。その後、海外へトレードされ、2017年はイタリアのベスナーテ牧場で供用され(61頭に種付けされる)、2018年は英国のバッツフォードスタッドにて供用される(種付料4000ポンド)。
・英国初のディープインパクト産駒供用となり、「ディープインパクトの初年度産駒を英国の牧場で供用することを大変喜ばしく思っています。このことは種付けのために牝馬を輸送しなくても、ワクワクするようなサイアーラインを取り入れられることを意味しています」と関係者が語り、小さくない期待を受けての英国入りとなった。
・英国入りの前年、2017年は英・愛で10頭のディープインパクト産駒が出走し、その中からSaxon Warriorが2歳G1-レーシングポストトロフィーを制し、SeptemberがロイヤルアスコットのL-チェシャムSを制し、2歳牝馬G1-フィリーズマイルで2着となった年。このディープインパクト産駒の尋常ではない活躍の流れを受けて、ダノンバラードが英国入りとなったのは明らかだろう。
初年度産駒デビューから日本再供用へ
・英国での供用となった2018年に2歳となった初年度産駒がデビュー。5/22の門別でウィンターフェルが勝ち、5/31の門別で岡田繁幸氏所有のナイママが2着に2.2秒差をつけて圧勝。ウィンターフェルは2戦目となる6/28の重賞・栄冠賞で13番人気ながら2着と健闘。その3日後にはガイセンが福島の新馬戦で6番人気で1着。これら初年度産駒の活躍を見てビッグレッドファームが早々に動き、買戻しを申し入れ日本復帰が決定。2018年の7月27日にはビッグレッドファームに入厩するという電光石火の早業に岡田氏の強い意思が感じられる。その後、ナイママはコスモス賞を制し、G3-札幌2歳Sで2着と健闘。ウィンターフェルは北海道2歳優駿2着、東京ダービー3着などの戦績を残した。
※(8/7追記)以下の現代ビジネスの記事によると、買戻しのオファーを最初に出したのは1stクロップが1歳の秋(2017年)とのこと。ただ、前記の通り、当時は欧州でディープインパクト産駒が旋風を起こしていた時期と重なっており、先方からの提示額はかなり強気なものだった模様で2018年に再度話を持ちかけて契約に至ったとのこと。
※2018年7月の日本復帰直後のダノンバラード
・現時点のダノンバラードの代表産駒・ロードブレスも初年度産駒だが、デビューは3歳4月。同馬は4歳時に1勝クラスから3連勝でオープン入りし、9月にJpn2-日本テレビ盃を制覇。その後は浦和記念2着、みやこS2着などダート重賞入着級の活躍を続けている。他に南関東の重賞・東京シンデレラマイルを連覇したダノンレジーナも初年度産駒。
・尚、2019年デビューの2ndクロップはJRA2歳戦で3頭がデビューし、ミッキーハッスルが勝ち上がり。2020年~2021年に欧州でデビューした3rd、4thクロップは英・愛・仏・伊産まれの産駒11頭が勝ち上がっているが、重賞・リステッド勝ち馬はゼロで、重賞・リステッド入着馬もゼロと今のところは目立った活躍馬は出せていない。
日本再供用後の産駒が今年デビュー
・種付料は100万円(受胎条件)、150万円(出産条件)に設定され、2019年は108頭に種付けされて、66頭の産駒(血統登録馬)が翌年誕生。中央では既に14頭がデビューし、グラニット、ミシシッピテソーロ、マイネルズーメンの3頭が勝ち上がり。他にピンクジンとフェルヴェンテが2着、コスモレンブランサとアンタノバラードが3着と入着頭数も多い。7/9の福島芝1800の新馬戦では1,3着をダノンバラード産駒が占め、強いインパクトを残す。勝ち上がり頭数はトップのエピファネイア(5頭)に次ぎ、シルバーステートと並び2位タイ。単回値は236円、複回値は368円。ここまでの日本再供用後の産駒の活躍は見事の一語に尽きる状況といえる。
7/10終了時点の中央産駒成績
3-2-5-7/17 勝率17.6%、連対率29.4%、複勝率58.8%
各指標、市場取引について
・同じディープインパクト産駒の種牡馬で今年の種付料がダノンバラードと同額の種牡馬にサトノアラジン、ディーマジェスティ、リアルインパクトがいる。7/10時点の数値を比較すると、CPIを見る限り総じて繁殖の質では最も劣ると思われるダノンバラードが最も高い1を超えるAEIを記録しており、注目に値する。
サトノアラジン 供用場所:社台スタリオンステーション
2世代が稼働中。主な産駒にディパッセ(小倉・西部スポニチ賞・2勝クラス)
中央CPI=1.26、AEI=0.80
ディーマジェスティ 供用場所:アロースタッド
2世代が稼働中。主な産駒にクロスマジェスティ(中山・L-アネモネS)
中央CPI=1.22、AEI=0.93
リアルインパクト 供用場所:優駿スタリオンステーション
4世代が稼働中。主な産駒にラウダシオン(東京・G1-NHKマイルC等)
中央CPI=1.02、AEI=0.98
ダノンバラード 供用場所:ビッグレッドファーム
5世代が稼働中。主な産駒にロードブレス(船橋・Jpn2-日本テレビ盃)
中央CPI=0.93、AEI=1.14
・市場取引の状況は以下の通り(平均価格の端数は切り捨て)。サトノアラジンの評価の高さとダノンバラードの安さが目立つが、今年のダノンバラードの市場取引馬2頭は5月の千葉サラブレッドセールで取引されたもので、2歳馬がデビューする前のもの。ここまでの2歳戦での戦績が一過性のものではなく、今後も継続するようなことになれば、産駒の取引価格も相応に上昇することになろう。尚、来る7/26,27に開催される北海道セレクションセールにダノンバラード産駒の上場予定馬はいない。
サトノアラジン
2021年:21頭(最高価格1億2650万円、平均価格2707万円、最低価格209万円)
2022年:5頭(最高価格4070万円、平均価格2816万円、最低価格1100万円)
ディーマジェスティ
2021年:10頭(最高価格1375万円、平均価格568万円、最低価格110万円)
2022年:なし
リアルインパクト
2021年:30頭(最高価格9020万円、平均価格1523万円、最低価格165万円)
2022年:4頭(最高価格1650万円、平均価格1325万円、最低価格572万円)
ダノンバラード
2021年:6頭(最高価格836万円、平均価格535万円、最低価格330万円)
2022年:2頭(最高価格704万円、平均価格517万円、最低価格330万円)
中央での産駒成績について
・次にこれまでの中央でのトータルの産駒成績を比較する。勝ち上がり率トップはダノンバラードで、平均勝利距離が最も長いのもダノンバラード。稼働世代数の違いはあるが、1頭当りの獲得賞金もダノンバラードはリアルインパクトの2倍以上の数字を残している。
サトノアラジン
61頭がデビューし、14頭が勝ち上がり(22.95%)
トータルで19勝(芝5、ダ14)。平均勝利距離は1647.7m(芝1400m、ダ1735.7m)
1頭当賞金381万円(芝165万円、ダ316万円)
獲得賞金1位・ディパッセ(3055万円)
獲得賞金2位・レディバランタイン(1903万円)
獲得賞金3位・クアトロマジコ(1710万円)
ディーマジェスティ
37頭がデビューし、9頭が勝ち上がり(24.32%)
トータルで11勝(芝7、ダ4)。平均勝利距離は1418.2m(芝1542.9m、ダ1200m)
1頭当賞金444万円(芝375万円、ダ222万円)
獲得賞金1位・シゲルファンノユメ(3440万円)
獲得賞金2位・クロスマジェスティ(2890万円)
獲得賞金3位・メイショウヒヅクリ(1296万円)
リアルインパクト
138頭がデビューし、37頭が勝ち上がり(26.81%)
トータルで65勝(芝32、ダ33)。平均勝利距離は1490.8m(芝1506.3m、ダ1475.8m)
1頭当賞金641万円(芝618万円、ダ438万円)
獲得賞金1位・ラウダシオン(2億6950万円)
獲得賞金2位・エイシンチラー(6400万円)
獲得賞金3位・エンプティチェア(5870万円)
ダノンバラード
31頭がデビューし、11頭が勝ち上がり(35.48%)
トータルで20勝(芝16、ダ4)。平均勝利距離は1755m(芝1725m、ダ1875m)
1頭当賞金1300万円(芝1015万円、ダ1231万円)
獲得賞金1位・ロードブレス(9825万円)
獲得賞金2位・モンブランテソーロ(8592万円)
獲得賞金3位・ナイママ(7672万円)
まとめ
・もともと自身、2歳重賞の勝ち馬で産駒のナイママ、ウィンターフェルが活躍したことからも2歳戦で産駒が一定の成績を残すであろうことは、ある程度は想定出来ようが、それを踏まえてもここまでの中央2歳戦での産駒のパフォーマンスは素晴らしく、種牡馬・ダノンバラードの存在感は確実に上昇したといえる。
・この活躍が一過性のものである可能性は否定出来ないが、主に1stクロップが記録した1頭当獲得賞金の高さは見逃せない実績で、25頭の1stクロップから交流重賞勝ち馬(ロードブレス)、オープン馬(モンブランテソーロ、ナイママ)、地方重賞勝ち馬(ダノンレジーナ)などを出した中身の濃さは秀逸。種付料が同額の同じディープインパクト系の種牡馬と比較した場合でも、数字的に劣る点は特に見当たらず、繁殖の質を考慮に入れるとむしろ種付料は格安なのではないかと思えるがいかがだろうか。流浪の果てに再び日本に舞い戻ったダノンバラードが下剋上を成し遂げる事が出来るのか、一定のクオリティは確かに示しているだけに、当面は重賞級の産駒の出現が早期に待たれる。