注目種牡馬コラム【2】日本供用が決まったハイランドリールについて

先日各スポーツ紙などが報じたG1・7勝のGalileo産駒・ハイランドリールが来春、エスティファームにて供用されるニュースをご覧になられた方も多いのではないだろうか。本稿ではハイランドリールの血統、現役時代、欧州での1stクロップ、2ndクロップの戦績などについて触れていく。

血統と現役時代

・2012年産。2013年タタソールズ10月1歳馬セール(Book1)にて、46万ギニーにて取引された馬。父はGalileoでGalileoの10thクロップ。母のHvegerは2001年豪州産のデインヒル産駒。現役時は13戦1勝(t1600m)、G2-SAオークス(t2500m)2着、G1-シュウェップスオークス(t2031m)3着祖母のCircles of GoldはG1-AJCオークスの勝ち馬で、Hveger以外にElvstroem(ドバイデューティーフリー、コーフィールドC、ヴィクトリアダービーなどG1・5勝)、Haradasun(クイーンアンS、ドンカスターマイル、ジョージライダーS)を輩出した優良繁殖牝馬。Highland Reelの全弟・Idahoは英重賞3勝、全弟・Cape of Good HopeはG1-ラドブロークSの勝ち馬、全弟・Nobel Prizeは愛重賞1勝。Highland Reelのの甥・Angel Bleuは昨年の仏2歳G1-クリテリウムアンテルナシオナル、ジャンリュックラガルデール賞の勝ち馬。牝系は母も祖母も活躍馬で、弟や甥や伯父や叔父に活躍馬が多くおり、総じて優秀な牝系の出身と言える。

・インブリードは父・Galileo、母父・デインヒルの配合で必ず発生するNorthern Dancerの3×4を持つ。牝系の出自が南半球にあることもあり、Hyperion直系のStar Kingdom(豪リーディングサイアーの座に5回就いた名種牡馬)の血が入っているのも興味深い点。日本に多いHaloやMr. Prospectorの血は全く持っていない。

・Highland Reelは現役時、世界を股にかけて活躍した名馬で戦績は27戦10勝、G1・7勝、重賞9勝。G1はアメリカ(2勝:BCターフ、セクレタリアトS)、香港(2勝:香港ヴァーズ×2)、英国(3勝:キングジョージ6世&クイーンエリザベスS、コロネーションC、プリンスオブウェールズS)で勝利。他にG1での2着が4回(ジョッケクルブ賞、インターナショナルS、凱旋門賞、香港ヴァーズ)、3着が3回(コックスプレート、英チャンピオンS、BCターフ)。

・エイダン・オブライエン師はハイランドリールの引退時に、「ハイランドリールはまったく特別な馬です。本当にかけがえのない馬です。彼のように遠征上手な馬は実にまれです。2歳の時から遠征が得意で、グッドウッド競馬場のヴィンテージSを制しました。そのうち、世界中を遠征するようになりました。まったく信じられないような馬です」「今後彼に替わる馬はいないでしょう。しかし、普通よりも1年長く、5歳まで管理することができたのは幸運でした」とコメント。ほとんど大敗することなく安定してハイレベルなパフォーマンスを示し続け、751万3355ポンド(現在のレートで約12億3349万円)の賞金を獲得。タフで先行力があり、2歳重賞を制しているように早熟性も備え、スタミナも十分。父譲りのメンタルの強さも戦績を見れば明らかである上に、先に示したように牝系も優秀となれば、種牡馬として魅力に富んだ一頭であることは確かだろう。

・以下の動画は4歳時に制したキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでのもの。4歳時はG1-ドバイシーマクラシック4着→G1-クイーンエリザベス2世C8着→G2-ハードウィックS2着とし、ここへ1番人気で出走。ハナを切りそのまま逃げ切り勝ち。当日の馬場状態は「Good To Firm」。

・以下の動画は4歳秋に出走した凱旋門賞でのもの。この年はシャンティイでの開催で馬場状態は上から4番目の「BON」。ペネトロメーターの計測値は3.0で日本風に言えば良馬場。バリードイル勢が1,2,3着を占めたレースでHighland Reelは好位から脚を伸ばし2着と健闘。

・以下の動画は凱旋門賞2着の後に出走したBCターフ。持ち味の先行力を遺憾なく発揮し、終始レースを主導。後続に何もさせずに逃げ完勝したレース。

・以下の動画はBCターフを制した後に出走した香港ヴァーズでのもの。このレースはサトノクラウンの鬼脚に屈し2着に敗れるも、この年は6月以降、毎月1走のローテーションでハードウィックS1着→キングジョージ1着→インターナショナルS2着→愛チャンピオンS7着→凱旋門賞2着→BCターフ1着と王道路線を歩み、愛チャンピオンS以外は全て1、2着と素晴らしい戦績を残す。

・5歳時はコロネーションC、プリンスオブウェールズSの2つのG1に勝利するが、キングジョージはEnableの4着、英チャンピオンSはCracksmanの3着、BCターフはタリスマニックの3着。以下の動画は引退レースとなった香港ヴァーズ。1番人気に応えての勝利で見事に有終の美を飾っている。

これまでの産駒成績について

・初年度の種付料は1万7500ユーロ。現3歳が1stクロップ、現2歳が2ndクロップになるが、重賞勝ちは以下の2頭、リステッド勝ちは以下の1頭のみ。他にリステッド入着馬1頭。Galileoとデインヒルを持つ血統上、繁殖の幅が限定的になる点や、そもそも優秀な繁殖牝馬が回ってきていないと思われる点はあるだろうが、総体的にこれまでの産駒成績は寂しいものと言える。だからこそ日本供用が実現したとも言えようが。

Atamisque(1stクロップ・母父:Pounced)
 伊2歳牝馬G2-ドルメロ賞(t8f)
 勝ち上がりは芝8f
 以下の動画はG2-ドルメロ賞でのもの。父のレーススタイルとは異なり中団追走からの差し切り勝ち。

Comanche Country(2ndクロップ・母父:Shamardal)
 米2歳G3-サーファーガールS(t8f)、米2歳L-デルマージュヴェナイルフィリーズターフS(t8f)
 母の従弟にタワーオブロンドン
 勝ち上がりは芝8f
 以下の動画はG3-サーファーガールSでのもの。こちらも父とは異なり中団追走から差す競馬で勝利。

High Approach(1stクロップ・母父・Encosta De Lago)
 豪L-TAB Trophy(t1800m)
 勝ち上がりは芝1500m
 以下の動画はL-TAB Trophyでのもの。こちらは3番手追走から直線しぶとく抜け出しての勝利。

・1stクロップ(現3歳)の2歳時の戦績は、血統登録馬97頭の内、51頭がデビューし、12頭が勝ち上がり(23.53%)となっており、勝ち上がり率はあまり高くない。TDNによる欧州繋養のファーストクロップサイアーランキングは16位。

・2ndクロップ(現2歳)の戦績は、血統登録馬52頭の内、20頭がデビューし、3頭が勝ち上がり(15.00%)。勝ち上がり率は1stクロップよりも劣る。この中にComanche Countryがいるので、中身は薄くないが勝ち上がり率15.00%はいかにも低く、2世代の2歳戦での戦績を見ると産駒が2歳戦から活躍するイメージはなかなか湧きづらいのは確かだろうか。

・ここまで2歳戦でふるわない要因は距離適性にありそうで、先にあげたステークス勝ち馬3頭はいずれもマイル以上でステークス勝ちをおさめている。5fや6fは不向きで8fまで延びれば走ってくる馬もおり、2歳重賞勝ち馬が2頭出ている、というのが戦績から見た現況と言えそうである。

・Highland Reelは現役時、2歳戦は6/12のデビュー戦(t7f)で2着→7/1の2戦目(t8f)で勝ち上がり(2着に12馬身差をつけての勝利)→7/30のG2-ヴィンテージS(t7f)勝ち、と申し分のない戦績を残しており、早熟性はあった馬ではあるが、ヴィンテージS以来の出走で1番人気に推されていた仏G1-プールデッセデプーラン(t1600m)では6着と敗れており、本質的にマイルは短かったと思われる馬。10fから12fを守備範囲とした戦績から、同様の資質を受け継ぐ産駒の出現に期待がかかるが、これまでの産駒でそのような兆候が見て取れる馬はおらず、強いて言えば唯一のリステッド入着馬・Didn’thavemuchtodo(1stクロップ)がマイルで連勝し、9.5fのリステッドで2着→9/11のG2-ブランドフォードS(t10f)で勝ち馬から3馬身1/4差の6着とし、重賞でもそこそこやれそうな走りを見せた点に僅かな期待がかけられようか。

・ちなみにHighland Reel産駒はこれまでにJRAではゴドルフィンのバリトンヴォイス(牡3・ダーリントンホールの半弟)が3歳5月の未勝利戦(東京芝2000)でデビューし11頭立ての11着(勝ち馬から5.6秒差)となったのが唯一の戦績。エスティファームの3歳馬2頭は未出走のまま抹消となり、エスティファームの2歳馬・トーセンアデル(牡2)は現在、不在厩。

エスティファームについて

・エスティファームの生産馬(2歳~11歳)を見ると、以下の種牡馬が多く種付けされている状況。これらの種牡馬にHighland Reelがどの程度、取って替わることになるのか、来年のHighland Reelの種付頭数には注目が集まるが、かなりの頭数になることが予想されよう。

 トーセンファントム:27頭
 トーセンホマレボシ:24頭
 トーセンブライト:19頭
 トーセンジョーダン:17頭
 マクマホン:13頭
 トーセンラー:11頭
 トーセンモナーク:10頭
 トーセンロレンス:10頭

・エスティファームの生産馬(2歳~11歳)を見ると、母父はGalileoなど横文字の馬も多いが、主な母父は以下の通りとなっている。これらの血を持つ肌との交配からHighland Reelがどんな産駒を送り出すのか、4年後の産駒デビューを興味を持って待ちたい。

 キングカメハメハ:13頭
 フジキセキ:13頭
 シンボリクリスエス:11頭
 スペシャルウィーク:9頭
 フレンチデピュティ:9頭
 クロフネ:8頭
 ダイワメジャー:8頭
 サンデーサイレンス:7頭