今回はカラヴァッジオを取り上げる。カラヴァッジオは日本軽種馬協会静内種馬場にて今年より種付料300万円にて供用開始のScat Daddy産駒の新種牡馬。本稿ではカラヴァッジオの血統、現役時代、欧州での1stクロップ、2ndクロップの戦績などについて触れていく。
戦績
・カラヴァッジオは2014年米国産のScat Daddy産駒。現役時は10戦7勝。2歳時にG1-フェニックスS(t6f)、G2-コヴェントリーS(t6f)、L-マーブルヒルS(t5f)を含む4戦4勝。3歳時はG3-ラッカンS(t6f)を制し、ロイヤルアスコットのG1-コモンウェルスC(t6f)をデビュー6連勝で制覇。その後はG2-フライングファイブS(t5f)の1勝にとどまったが、3歳6月までのパフォーマンスは圧倒的なもので、以下、レース動画をご紹介していく。
・以下の動画はデビュー3戦目のロイヤルアスコットでのG2-コヴェントリーS(t6f)でのもの。手前の馬群を追走し、馬場の真ん中に進路を取られると豪快に伸び、2着のMehmasに2馬身1/4差をつけて完勝。
・次走は8月のG1-フェニックスS(t6f)。5頭立ての4番手追走からあっさり抜け出し、2着に4馬身差をつけて圧勝。レース後、A P O’Brien師は「彼は非常にペースが速く、素晴らしい精神を持っています」とコメント。さらに、最終追い切りで時速45マイルの最高速度を出し、バリードイルでそれを達成できた馬はいないともコメントし、この馬の卓越した早熟性、スピードを称えている。その後、筋肉の怪我を負い、目標としていたミドルパークSには出走せず、無敗のまま2歳戦を終える。
・復帰戦は3歳5月のG3-ラッカンS(t6f)となり、これを楽勝し、デビュー5連勝を達成。レース後、A P O’Brien師は「彼は信じられないほど速い馬だ。私はこれより速い馬を見たことがないので、彼と一緒にこの道を進んだ」とコメントし、2000ギニーではなくスプリント路線を選んだ理由を述べている。
・続いてロイヤルアスコットのG1-コモンウェルスC(t6f)に圧倒的な1番人気に推される中、出走。後のG1馬で共に種牡馬となっているゴドルフィンの俊英、Harry Angel、Blue Pointが2,3番人気となり、メンバーが揃っていた一戦だが、内からゴドルフィン勢を力づくで交わし去り、快勝。レース後、Racing Post Weekenderは「彼のフェラーリエンジンが始動し、彼はフィールド全体を駆け抜けた」とこの勝利を形容。A P O’Brien師は「彼は2頭の良い馬の後ろでやるべきことがたくさんあり、2.5ハロンしかレースをしませんでした」とコメント。
・以後、ジュライC4着→モーリスドゲスト賞6着→フライングファイブS1着→ブリティッシュチャンピオンズスプリントS3着と走り、引退。
父・Scat Daddy
・父のScat Daddyは2004年米国産のヨハネスブルグ産駒。馬名はオーナーの1人、James T. Scatuorchio氏のニックネーム「Scat」より。現役時は9戦5勝、G1-フロリダダービー(d9f)、2歳G1-シャンペンS(d8f)、G2-ファウンテンオブユースS(d9f)、2歳G2-サンフォードS(d6f)の勝ち馬。ケンタッキーダービーに3番人気で出走するもレース中に軽度の腱損傷を負い、勝ち馬から38馬身半差の18着で入線。その後、3歳6月に引退。
・Scat DaddyはMr. Prospectorの2×4の強めのクロスを持つ馬。母のLove Styleは未出走、祖母のLikeable StyleはG1-ラスヴァージネスS、G3-ハニームーンH、G3-セニョリータBCSの重賞3勝の一流馬。
・Scat Daddyは種牡馬入り後、大成功を収めるが詳細は以下の過去記事を参照頂きたい。記事アップ後の進展を付記すると、後継種牡馬としてミスターメロディ(高松宮記念、ファルコンS)がスタッドインしており、1stクロップは来年デビューとなる。
カラヴァッジオの母系、母父
・母のMekko Hokteは2000年米国産のHoly Bull産駒。現役時は13戦3勝、ブラックタイプのデルタミスSの勝ち馬。カラヴァッジオの7歳上の半姉・マイジェン(父・Fusaichi Pegasus)は9戦4勝、G2-ギャラントブルームHの勝ち馬。2012年11月のキーンランドMixedセールにハードスパンの仔を受胎した状態で上場され、社台ファームが48万5000米ドルで購入。マイジェンは5番仔のサトノゴールド(札幌2歳S2着)、7番仔のプルパレイ(現役・ファルコンSの勝ち馬)らを輩出中。
・母父のHoly Bullは1991年米国産のGreat Above産駒。現役時は16戦13勝、トラヴァーズS、メトロポリタンH、ハスケル招待H、ウッドワードS、フロリダダービー、フューチュリティSの6つのG1を含む重賞9勝。1994年のエクリプス賞年度代表馬、最優秀3歳牡馬。父系はいわゆるヒムヤー系でPlauditから分岐したもの。父としてGiacomo(ケンタッキーダービー)、Macho Uno(BCジュヴェナイル)らを輩出。Macho Unoは父としてMucho Macho Man(BCクラシック等)、ダノンレジェンド(JBCスプリント)らを出し、サイアーラインの継続に貢献している。Holy Bullは母父としてカラヴァッジオの他にJudy the Beauty(BCフィリー&メアスプリント、マディソンS等)らを輩出。
カラヴァッジオとNo Nay Never
・カラヴァッジオは2018年からアイルランドのクールモアスタッドにてスタッドイン。初年度の種付料は3万5000ユーロで翌年も同額、3年目は4万ユーロに増額される。4年目(2021年)からは同じクールモアのアメリカのアシュフォードスタッドに異動となり、種付料は2万5000米ドルに設定される。5年目(2022年)は3万5000米ドルに増額される中、供用6年目となる今年から日本にて供用されることとなった。
・クールモアでは一足先に3歳上のNo Nay NeverがScat Daddyの後継種牡馬として2015年より稼働しており、1stクロップのTen Sovereignsが2018年のミドルパークS、2019年のジュライカップに勝利し、早々に優良種牡馬として名乗りを上げた事が、同じScat Daddyを父に持つカラヴァッジオのアメリカへの異動に大きく関係していると思われる。
・No Nay Never産駒の快進撃はさらに続き、3rdクロップのAlcohol Freeが2020年のチェヴァリーパークS、2021年のコロネーションS、サセックスS、2022年のジュライカップを制覇。Ten Sovereignsの活躍で種付料が前年の4倍の10万ユーロに急騰した2019年に種付けされ、翌年産まれた現3歳世代からはBlackbeard(モルニー賞、ミドルパークS)、Meditate(BCジュヴェナイルフィリーズターフ)、Little Big Bear(フェニックスS)の3頭のG1馬が出現。No Nay Neverが完全に一流種牡馬の地位を築き、アメリカのアシュフォードスタッドにはScat Daddyの代表産駒、米3冠馬・Justify(昨年1stクロップがデビュー)も控えている状況が、カラヴァッジオの日本行きに繋がったものと思われる。
カラヴァッジオの1stクロップ、2ndクロップ
・2019年産まれのカラヴァッジオの1stクロップは2021年にデビュー。129頭の血統登録馬の内、2歳戦で81頭がデビューし、26頭が勝ち上がり(32.1%)。1頭のG1馬(Tenebrism・チェヴァリーパークS)、1頭の重賞勝ち馬(Agartha・シルバーフラッシュS、デビュータントS)を輩出。Tenebrismは3歳となり、仏G1-ジャンプラ賞に勝利し、ロートシルト賞2着。Agarthaは3歳時にG3-フェアリーブリッジSに勝利し、他にドイツでMaljoomがG2-メールミュルヘンスレネン(独2000ギニー)を制覇。Tiber Flowがリステッド勝ち。
・以下の動画はTenebrismが制したG1-チェヴァリーパークS。最後方に近い位置からレースを進め、ラチ沿いを豪快に伸びて一気の追い込み勝ち。このレースぶりから昨年の英1000ギニーでは1番人気に推されるも8着。次走のコロネーションSは4着となり、その後に出走したのが以下に示すジャンプラ賞になる。
・Tenebrismが2つ目のG1タイトルを獲得したのがG1-ジャンプラ賞。道中は馬群の中で脚を溜め、ラスト鋭く差し伸びて1着。このレースの後はロートシルト賞2着→愛メイトロンS3着→フォレ賞5着→ブリティッシュチャンピオンズスプリントS5着。大敗はしないがワンパンチ足りない結果が続いている状況。
・G1馬、Tenebrismの母はジャックルマロワ賞、コロネーションSの勝ち馬・Immortal Verse(父・Pivotal)。重賞3勝のAgarthaは近親にAzamour(キングジョージ、愛チャンピオンSなどG1・4勝)、The Autumn Sun(豪G1を5勝)、Astarabad(ガネー賞)がいる馬で母父はDylan Thomas。
・2020年産まれの2ndクロップ(現3歳)からは重賞勝ち馬が出ておらず、La Dolce VitaがG1-モイグレアスタッドSで5着となったのが目立つ程度。2ndクロップの不振もカラヴァッジオの日本行きの要因の一つと言えようか。ただ、2ndクロップが種付けされた2019年は前記の通り、No Nay Neverの種付料が前年の4倍になった年で、Scat Daddy系の種付けを考えた場合、優良繁殖牝馬の多くはカラヴァッジオではなく、既に前年にG1馬を出していたNo Nay Neverに回っていたと思われる点は考慮に入れる必要があろう。
カラヴァッジオの可能性
・カラヴァッジオが現役時に示したスピード、早熟性を受け継いだ産駒の出現に期待がかかるが、1つ下の同じScat Daddy産駒・ミスターメロディが初年度(2021年)は174頭、2年目(2022年)は164頭の種付頭数を確保したように、Scat Daddy系の人気は非常に高く、種付料はミスターメロディの倍の300万円になるがカラヴァッジオも相当な種付頭数を集めそうである。No Nay Neverの影に隠れた環境的要因で産駒成績が低めになっている可能性を踏まえると、Tenebrismに続くG1馬が日本から出る可能性にも期待がかかるがどうだろうか。
※カラヴァッジオが日本に到着した際の動画。現役時よりも白くなった馬体が印象的である。
・カラヴァッジオは自身、Mr. Prospectorの3×5のクロスを持つ馬で、産駒の血統表の「4」の位置にMr. Prospectorが入る。キングカメハメハの肌と交配されると、Mr. Prospectorの4×4のクロスが発生するが、異系の血を多く持つ為、5代までにクロスを持たないアウトブリードの産駒が多くなりそうな点が非常に興味深いポイントとなる。以下にカラヴァッジオの4代までに入っている父系の血統(=産駒の5代血統表までに入る血統)を列記する。
産駒の「2」の位置に入る血統:Scat Daddy
産駒の「3」の位置に入る血統:ヨハネスブルグ、Holy Bull
産駒の「4」の位置に入る血統:ヘネシー、Mr. Prospector、Great Above、Relaunch
産駒の「5」の位置に入る血統:Storm Cat、オジジアン、Raise a Native、Nijinsky、Minnesota Mac、Al Hattab(いわゆるBlandford系の種牡馬)、In Reality、Silver Series(Bold Rulerの孫)
・ちなみにCaravaggio産駒はこれまでに4頭が中央で出走しており、勝ち上がったのはアグリ(牡4)のみ。現在8戦4勝の現役馬で昨年8月以降、1勝クラス(札幌芝1500)→2勝クラス(阪神芝1400)→3勝クラス(阪神芝1400)と一気に3連勝しオープン入り。母のオールドタイムワルツは10戦1勝。祖母のTogetherは米G1-クイーンエリザベス2世チャレンジカップSの勝ち馬で、英1000ギニー2着、愛1000ギニー2着などG1での2着が5回ある活躍馬。アグリはノーザンファーム産で母父はWar Front。クロスはNorthern Dancerの4×5を持つが、これは母が持っているクロスになる。2020年のセレクトセールに上場され、1億1550万円で取引されている。
・尚、Scat Daddy産駒はこれまでに19頭が中央で出走しており、12頭が勝ち上がり(63.2%)。収得賞金トップはG1馬・ミスターメロディで、以下、モズダディー(中央3勝)、ゴルゴバローズ(中央4勝)が続く。
・最後にカラヴァッジオの5代血統表は以下の通り。