種牡馬研究【1】キタサンブラック

供用初年度から大物イクイノックス(天皇賞秋、有馬記念、ドバイシーマクラシック)が飛び出し、2年目の産駒からもソールオリエンス(皐月賞)を筆頭に活躍馬が頻出しているキタサンブラックについて、このタイミングで掘り下げて考察してみたい。

キタサンブラックについての概括的な情報は以下の種牡馬データファイルにまとめている。

Ⅰ 産駒傾向をみる

現3・4歳世代を対象にしたデータで、競合種牡馬との比較を掲載している。

キタサンブラック

芝勝率12.6%・ダ勝率14.8%
平均デビュー時期10月後半・デビュー時平均馬体重470kg
平均勝利距離1745m

エピファネイア

芝勝率10.5%・ダ勝率5.7%
平均デビュー時期9月後半・デビュー時平均馬体重464kg
平均勝利距離1779m

キズナ

芝勝率11.4%・ダ勝率13.1%
平均デビュー時期10月前半・デビュー時平均馬体重465kg
平均勝利距離1779m

モーリス

芝勝率9.8%・ダ勝率9.4%
平均デビュー時期9月後半・デビュー時平均馬体重463kg
平均勝利距離1575m

ロードカナロア

芝勝率12.1%・ダ勝率9.7%
平均デビュー時期10月後半・デビュー時平均馬体重469kg
平均勝利距離1533m

※参考に、以下、非現役種牡馬の数値を掲載
ドゥラメンテ
芝勝率10.9%・ダ勝率11.6%
平均デビュー時期10月前半・デビュー時平均馬体重470kg
平均勝利距離1776m
ディープインパクト
芝勝率19.1%・ダ勝率8.0%
平均デビュー時期10月前半・デビュー時平均馬体重457kg
平均勝利距離1948m
ハーツクライ
芝勝率10.9%・ダ勝率11.4%
平均デビュー時期10月前半・デビュー時平均馬体重457kg
平均勝利距離1858m

加えて、キタサンブラック産駒の代表的な活躍馬のジョッキーコメントから、傾向を把握する上で興味深いものをピックアップしている。

イクイノックス
2歳8月 新馬1着 ルメール騎手「スタートが良かったし、真面目に走った。まだ緩いのに追い出すとすぐ反応できた…トビが大きくて伸びしろがある」
3歳12月 有馬記念1着 ルメール騎手「クラシックでは大人に成り切れていなかった。3歳秋から強くなった」
ソールオリエンス
3歳1月 京成杯1着 横山武騎手「まだ体が緩くて…3角の手応えも怪しかったですが、能力だけでカバーしてくれました。精神面、フィジカルと成長が欲しいところですが、期待していい馬です。」
ガイアフォース
3歳10月 菊花賞8着 松山騎手「道中は折り合いがついていい感じでしたが、最後は距離もあるかもしれません。」
4歳4月 マイラーズC2着 西村淳騎手「マイルでも競馬ができましたし、距離が延びても大丈夫。操縦性の高い馬です。」
スキルヴィング
2歳10月 新馬2着 ルメール騎手「まだ緩いですね」
2歳11月 未勝利1着 ルメール騎手「スタートは良くなかったけれど、道中は冷静に走ってくれました…使って馬も良くなってきていました。」
3歳2月 ゆりかもめ賞1着 ルメール騎手「まだ体が緩くてスタートは遅かったけど…長く脚を使ってくれた。伸びしろがある。」

【産駒傾向雑感】
・ダートをこなす点は、ライバルと思しきエピファネイアに対する優位点。
・仕上がり・完成は遅めで、馬格に見合った成長を待つ必要がある(早熟性ではエピファネイアに大きく譲る)。
・クラシックディスタンスに適応するが、エピファネイアやキズナより幾分距離適性は短め、ディープインパクト・ハーツクライらより明確に短く、ステイヤー適正は??
・全体に体格に恵まれる馬が多く、繁殖牝馬の馬格を選ばない点はセールスポイントと考えられる。
・ジョッキーコメントからも、完成に時間を要するタイプであることを示唆する内容が目立っている。精神的な幼さに触れるコメントも散見されるが、折り合いには難がないタイプが多いようでもある。

Ⅱ 代表産駒の配合をみる

イクイノックス(牡4、主な勝鞍:有馬記念、天皇賞・秋、ドバイシーマクラシック)

キタサンブラック
(2012)
ブラックタイド┌サンデーサイレンス(Halo)
└ウインドインハーヘア(Alzao)
シュガーハート┌サクラバクシンオー(サクラユタカオー)
└オトメゴコロ(ジャッジアンジェルーチ)
シャトーブランシュ
(2010)
キングヘイロー┌ダンシングブレーヴ(Lyphard)
└グッバイヘイロー(Halo)
ブランシェリー┌トニービン(Kampala)
└メゾンブランシュ(Alleged)

・母シャトーブランシュは3歳~5歳まで走り、25戦して4勝(芝1800~2000、ダ1800)、G3マーメイドSに勝利。480kg前後の馬体重で推移。3歳時に重馬場のローズSで2着食い込んだ時点では重巧者的な見方があったが、5歳時に勝利したマーメイドSは良馬場で上がり3F33.6での後方一気。イクイノックスの瞬発力に母影響を考える要素がある。
・イクイノックスはシャトーブランシュの3番仔。初仔のミスビアンカ(牝、父ロードカナロア)が芝1400・ダ1400で計3勝、2番仔のヴァイスメテオール(牡、父キングカメハメハ)はG3ラジオNikkei賞を含む計4勝と、シャトーブランシュの繁殖としての質はA級以上と言える。
・シャトーブランシュは、父キングヘイロー(芝ダ兼・短)、母父トニービン(芝・長)、母父Alleged(芝・長)の血統構成。Alleged、トニービンの両凱旋門賞馬を経由して、スタミナ色を濃厚に蓄積してきた母系(シャトーブランシュの叔父ブランディスがサクラバクシンオー産駒として中山大障害を制したことは象徴的)だが、キングヘイローを介して幾分スピードとのバランス・融合を図った形となっている。
・イクイノックスにはHalo S4xM4、Lyphard S5xS5xM4のインブリードがある。サンデーサイレンス系の活躍馬に多くみられるインブリードをダブルで有した形となっていることは大変興味深いが、世代的に現在ではHalo、Lyphardのインブリードを有効な形でかけるチャンスは限られ、本稿ではこの点については掘り下げない(キタサンブラック産駒におけるサンデーサイレンスのインブリードの有効性については以下詳述する)。

ソールオリエンス(牡3、主な勝鞍:皐月賞)

キタサンブラック
(2012)
ブラックタイド┌サンデーサイレンス(Halo)
└ウインドインハーヘア(Alzao)
シュガーハート┌サクラバクシンオー(サクラユタカオー)
└オトメゴコロ(ジャッジアンジェルーチ)
スキア
(2007)
Motivator┌Montjeu(Sadler's Wells)
└Out West(Gone West)
Light Quest┌Quest for Fame(Rainbow Quest)
└Gleam of Light(デインヒル)

・母スキアはフランス3勝、4歳秋に仏G3・フィユドレール賞(芝10.5f、馬場状態はSoft)に勝利。
・ソールオリエンスは8番仔。4番仔ヴァンドギャルド(牡、父ディープインパクト)は富士Sに勝利。他の兄弟も2勝を上げているフォティノース(牝、父ドゥラメンテ。芝1600mで2勝)、セリノーフォス(牝、父ダイワメジャー。芝1000・芝1200mで勝利)など、母スキアは良質の繁殖牝馬と言える成績を残してきた。
・スキアは父が英ダービー馬のMotivator(芝・長)、母父も英ダービー馬Quest for Fame(芝・長)、母母父が大種牡馬デインヒル(芝・中)という構成で、スケールの大きさ、底力を十二分に備えた配合。父のMotivatorは、凱旋門賞連覇の女傑Treveを輩出にも関わらず現在5000ユーロで供用されているように種牡馬としてのクオリティーの不安定さは折り紙つきなのだが、タイトルホルダー(この馬も母父がMotivator)の存在が注目度を高める要素になっている(注:母父Motivatorはこれまで日本で累計で僅か13頭しか出走していないが、福島牝馬S勝ちのステラリアを含め、驚異的な率で活躍馬を輩出している)。
・ソールオリエンスは5代血統表にインブリードをもたない。

以下、その他の活躍馬の配合についてやや簡略化して触れる。

ガイアフォース(牡4、主な勝鞍:セントライト記念)
・母ナターレは地方9勝、川崎・戸塚記念(ダ2100)の勝馬。盛岡の芝1700m重賞・OROカップを連覇しており、芝適正も示していた。馬体重は460kg前後で推移。
・ガイアフォースは5番仔。ここまで兄弟の競走実績は乏しい。
・ナターレは父クロフネ(芝ダ兼用・短中)、母父ダンスインザダーク(芝・長)、母母父ノーザンテースト(芝ダ兼用・中)の構成。
・ガイアフォースにはサンデーサイレンス S3×M4のインブリードがある。

スキルヴィング(牡3、主な勝鞍:青葉賞)
・母ロスヴァイセは3勝(いずれもダ1400)。馬体重は変動が大きいが460kgを中心に推移。
・スキルヴィングは3番仔。2番仔ヴァーンフリート(父リオンディーズ)が2勝(芝1勝、ダ1勝)。ロジユニヴァース(ダービー)、ディアドラ(秋華賞、英ナッソーS)、ソングライン(安田記念)らのソニンクを牝祖とする屈指の優良牝系。
・ロスヴァイセの血統構成は父シンボリクリスエス(芝ダ兼用・長)、母父アドマイヤベガ(芝・中長)、母母父Machiavellian(芝ダ兼用・中)。
・スキルヴィングはHail to Reasonの3連続ラインブリードで、サンデーサイレンス S3xM4のインブリードがある。

ラヴェル(牝3、主な勝鞍:アルテミスS)
・母サンブルエミューズは3勝(芝1200~1600)、フェアリーS3着がある。馬体重は440kg近辺で推移。
・ラヴェルは4番仔。初仔ヴェスターヴァルト(父ノヴェリスト)はG3ファルコンS3着、3番仔ナミュール(父ハービンジャー)はG2チューリップ賞の勝馬。母サンブルエミューズの半妹にマルシュロレーヌと、牝系の活力は際立っている。
・サンブルエミューズは父ダイワメジャー(芝・短)、母父フレンチデピュティ(芝ダ兼用・短中)、母母父ダンシングブレーヴ(芝ダ兼用・中)と配されてきた。
・ラヴェルにはサンデーサイレンス S3xM3のインブリードがある。

コナコースト(牝3、桜花賞2着)
・母コナブリュワーズは4勝(芝1200~1400)。馬体重は460kg前後の推移。
・コナコーストは4番仔。半姉カイルアコナは2勝。フサイチコンコルド(ダービー)、アンライバルド(皐月賞)らのバレークイーン牝系。
・コナブリュワーズは父キングカメハメハ、母父フレンチデピュティ(芝ダ兼用・短中)、母母父サンデーサイレンス(芝・中長)の血統構成。
・コナコーストにはサンデーサイレンス S3xM4のインブリードがある。

ウィルソンテソーロ(牡4、主な勝鞍:かきつばた記念(名古屋ダ1500))
・母チェストケローズは米国産。日本で走り、地方2勝(船橋)。馬体重は420kg前後の推移。
・チェストケローズの半兄に米G2オハイオダービーの勝馬Delightful Kissがいる。
・チェストケローズは父Uncle Mo(ダ・短中)、母父フレンチデピュティ(芝ダ兼用・短中)、母母父Sawbones(ダ・距離適性?)と、ダート色の強い構成。
・ウィルソンテソーロは5代血統表にインブリードはない。

ジャスティンスカイ(牡4、主な勝鞍:洛陽S(L))
・母リアリサトリスはフランス産、仏Prix De Bagatelle(L)2着がある(1mile、馬場状態Good)。
・半兄にリアリスト(ダ3勝)など。デビューした兄弟馬は全て堅実に勝ち上がっている。
・リアリサトリスの血統構成は父Numerous(ダ・短)、母父Groom Dancer(芝・中)、母母父Nureyev(芝・短)。
・ジャスティンスカイにはLyphard S5xS5xM5のインブリードがある。

【配合雑感】
・母の競走実績は多様だが、ダートや重巧者的なテイストが漂う。「スピードタイプの牝馬にディープインパクトやハーツクライ」、が近年の王道だったと思うが、その延長線的な図式でスピード能力を母方に頼る必要は必ずしもなさそう。
・クラシック路線を意識するなら、むしろ母系からスタミナを受け継ぐべきなのか。
・母の馬格はコンパクト~中型。Ⅰで見たように仕上がりが遅いことから大型牝馬との配合は疑問符。
・いわゆる良血馬が目立つ。ステイゴールド的な怪力のイメージはない。
・SSインブリード馬が多い(下記Ⅲで検証)。

Ⅲ インブリードの効果をみる

ブラックタイド
(2001)
サンデーサイレンス┌Halo(Hail to Reason)
└Wishing Well(Understanding)
ウインドインハーヘア┌Alzao(Lyphard)
└Burghclere(Busted)
シュガーハート(2005)サクラバクシンオー┌サクラユタカオー(テスコボーイ)
└サクラハゴロモ(ノーザンテースト)
オトメゴコロ┌ジャッジアンジェルーチ(Honest Pleasure)
└テイズリー(Lyphard)

上でも触れたが、キタサンブラックの配合で考慮すべきインブリードとしては、サンデーサイレンス(SS)が筆頭として挙げられる。繰り返しになるが、イクイノックスにみられるLyphard・Haloのクロスについては世代的に有効な位置での再現が難しくなっており、また将来的にはウインドインハーヘアのクロス(例えばキズナ牝馬にキタサンブラックのような)も考えられそうだが現時点では明らかに時期尚早、のため割愛している。

種牡馬データファイルに掲載している現3~4歳世代のキタサンブラック産駒におけるSSインブリードの有無と重賞勝馬数の関係を再掲したのが以下。構成比でみると、SSインブリード馬は少数派。サンプル数は多くないが、現状輩出率ではインブリードに軍配が上がる。

a 頭数構成比b 重賞勝馬頭数b/a 輩出率
SS3×31610.5%16.3%
SS3×41711.1%211.8%
その他12078.4%32.5%
合計153100.0%63.9%
SS3×3該当馬:ラヴェル
SS3×4該当馬:ガイアフォース、スキルヴィング
その他該当馬:イクイノックス、ソールオリエンス、ウィルソンテソーロ

続いて勝率・連対率、勝ち上がり率、のデータは下記の通り。

勝率連対率勝ち上がり率
SS3×313.8%24.6%37.5%
SS3×416.1%35.5%52.9%
その他12.8%20.6%40.4%

キタサンブラック以外のサンデーサイレンスの孫世代種牡馬(キズナ、オルフェーヴルなど)でもSS3×4の成績が優位となる傾向にある(対照的にSS3×3は低調)。キタサンブラック産駒についても、サンデーサイレンス3×4のインブリードが有効である可能性が高いと思われる。